「富士」
武田泰淳
中央文庫

2019.1.9.
巻末の解説に「悠揚たる富士に見下ろされる戦時下の精神病院を舞台に、人間の狂気と正常の謎にいどみ、深い人間哲学をくりひろげる武田文学の最高傑作」とあるが、兎も角難解。精神病科実習生が、25年前の精神病院での患者たちとの共同生活、出来事を見つめ直す形で進められる物語。

自分を宮様と思い込んでいる嘘言症患者、伝書鳩を愛好した進行性麻痺患者、梅毒による精神病者達等による、狂気の妄想からの汚らわしい混乱、まさに不快な醜態が綴られていく。

673頁の大作で、最後までページを繰るのに二カ月近く掛った。読み終わっても、作者は、明確な意図、結論を読者に与えてはくれず(私だけがそう思うのかもしれないが)、全くもって闇の中に放り出される感じ。

人を惹き付ける霊峰でもあり、接近を拒む魔の山の「富士」が、この本のタイトルである事、また、作者は、「三島由紀夫の割腹自決事件があって、この本は、完結できた」とも云っている事からして、この本の趣旨は、「人間は、時として正常人から異常人に変身する、両者の立場が入れ替わる危険性を持つ」とも思えるが、そんな当たり前の事を云って、それがどうだと云うんだ。人間哲学と云うが、頷けるような点はなかった。

もう一度、じっくり読むしかない。ただ、謎掛けの様な文章が続き、小説の半分以上は理解できないので、これ程読むのが苦痛な本は珍しい。


「親鸞」激動篇 上・下
五木寛之
講談社

2019.1.21
親鸞三部作の内、親鸞の幼児のころから三十代にいたる放浪、勉学の時代の第一部、流刑の地、越後から京都に戻っての六十代から亨年九十までの第三部、そしてこの、越後から常陸の国に移っての第二部「激動篇」では、親鸞の、生き仏を自称する非人乞食の総領、悪代官との闘い、六波羅蜜と呼ばれ悪行の限りを尽くす一党の首領、奇怪な仮面の法師との闘いが繰りひろげられる。

法然上人の説かれた、ただ信じて念仏すると云う易行念仏は、闇を抱える人々にとっておおらかに照らす救いの光。親鸞は「その光のお陰で生きてこられた」と、そして、「念仏とは、浄土に行けますようにと願う依願念仏ではない。浄土に迎えられると疑いなく信じられた時、念仏が生まれる。」と、「わが身の極楽浄土を願う念仏でなく、自然に体の奥から溢れ出てくる念仏でなくてはならない」と。

南無阿弥陀仏の南無とは、「お任せします、心から信じて帰依致します」との事。

私自身、寺社で手を合わせる時は、何ら願う事無く、ただ無心に手を合わせるだけ。寺社に赴くのは、無心になれるからなのだと思う。


 2019.2月
「親鸞(一)」
吉川英治
講談社吉川英治歴史時代文庫 

2019.2.7
三年に及ぶ新聞連載小説。源氏の血を受けて生まれた親鸞は、平家の目から逃れる意味もあって、9歳で得度を許され叡山に登る。仲間僧の妬み、嫉みの中、命がけに修業を積むも、虚無と紛乱と闇黒の巷にまよう現世界の明かしと、人類永劫の安心と大決定を掴みたいと叡山を下山し、南都で更なる研鑽を積む。

面白さもさることながら、美しい綴りに心が洗われる。一字一句精読しなくてはならない本。


「親鸞(二)」

2019.2.13
25歳で聖光院の門跡になるも、前関白の娘、玉日姫に心を奪われ、「女色禁」の一戒に苦しむ。畜妻噉肉は堕獄の罪と、一笠一杖の雲水となって、叡山で再度修業する事となる。

9歳からの二十年間、叡山で「すべての行」を修業しつくした親鸞だが、人間の中の仏教をと、叡山を去って、民衆をすがらせている吉水の専修念仏門の一紗弥となって法然のもとで修業し直す。叡山の座主の許しで玉日姫と結婚。

邪教と蔑む幼少からの学友だった山伏との戦い、叡山、奈良の僧衆から弾圧、迫害、誹謗そして、念仏停止の訴えに晒されていく。


「親鸞(三)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.2.22
浄土念仏禁止、念仏停止の官命で、法然は土佐に、親鸞は土佐に遠流される。
今は弟子、その昔は極悪無道の大盗四郎の生信房が、素直に念仏を体得している様で、その時、善信と名乗っていた親鸞は「39歳で振り返ってみれば、実にただ愚の一字につきる。愚かさに驚かされる」と、「いっそう真の念仏を、凡夫直入の手引を」と、名を、愚禿親鸞と改める。布教を乞われ常陸の国へ。

「空しい人生をおくらない為にも、他人を見ずにまず自分を見よう」。「何事にふれても念仏を怠るな。不断のもの、自分のものにせよ」。「何事も御仏と二人づれなればこそ、気強くもおれる」と、愚禿親鸞の生き様に感激する。

話の展開もさることながら、綴りの流麗さに心が洗われる。吉川英治の本の多くが再読したい本となるのであろう。  


2019.3月 
「裏切りの日日」
逢坂剛
集英社文庫

2019.3.1.
ビル乗っ取り事件、マンションでの右翼大物狙撃射殺事件の二つの事件が同時に、同地域で起きる。居合わせた公安刑事に、汚職事件内偵調査の特別監察官が複雑に絡んで、思いもよらぬ終わりとなる。

百舌シリーズ第一作。シリーズ2の「百舌の叫ぶ夜」の面白さで、読んでみたが期待外れ。裏切り、逆転、ドンデン返しの逢坂剛だが、この第1作は、謎解きミステリーの如き筋書きの工夫は存分にあるのだが、その工夫さだけに意が注がれた感じ。思わぬどんでん返しにも感服もしない。切迫感、緊迫感なし。逢坂剛らしくなく、作者の覇気が感じられない。


「みちのくの人形たち」
深沢七郎
中央文庫

2019.3.12
1981年谷崎潤一郎賞受賞作。深沢七郎特有の幽玄の世界が拡がる味わい深い標題作を含む7短編集。背筋がぞくぞくと冷やりとする不気味さを漂わす「みちのくの人形たち」は、是非に読み続けられてほしい一冊。

「みちのくに人形たち」 山深い辺鄙な東北の田舎で、お産が近づくと屏風を借りに来る村人たち。出産の時の逆さ屏風の奇習、悲しさが語られる。「楢山節考」の真逆版。
「秘戯」 壊される人形の隠された秘密。
「アラビア狂想曲」 めくらも目があく、死人も生き返る、誰でも救ってくれる狂騒曲。
「をんな曼陀羅」 フランス画家の絵。
「破れ草紙に拠るレポート」 畳職人清吉にまつわる話。
「和人のユーカラ」 三年前、大雪山で会った先住人の山男の話。
「いろひめの水」 サケが生まれた川に戻る様に、60年経って、北海道に帰る話。 


「告白」
町田康
中央公論新社

2019.3.22
明治26年、大阪の片田舎で起きた11人惨殺事件をモチーフにした小説。本事件は、河内音頭の代表的な演目「河内十人斬り」ともなっている。
惚れた女房が、村の顔役弟と密通していた事が引金となって、若い時から、賭博や飲酒に明け暮れ、一生、「やたけた(泉州弁、やぶれかぶれの意)」でいったるとの男が、邪悪な奴らがのさばっていたら碌な事にならない、正義を保つためにと、11人を惨殺する。
若い時から、騙され賺され続け 内側の虚無が絶えず視界に入って人間としていたたまれなかったから暴れ狂い咆哮したと、已むを得なかったと云いたいのだろうか。

朝日新聞が選んだ「平成の30冊」の第三位(因みに一位は、1Q84,二位は、わたしを離さないで)との事で、読んだのだが、ともかくも退屈極まりなく、惚れた女と所帯を持つ残り3割ぐらいになった辺りからやっと読む気が起きたのだが、676頁の分厚さで、読むのに大変苦労した。。

書く人側から見たら大変な力作なのだろう。


「ひとりの覚悟」
山折哲雄
ポプラ親書

2019.3.29
死の規制緩和、安楽死解禁が提言された本。
人生100年時代となり、「生」と「死」の間に、長い「老」と「病」の期間が割り込み、「死に向き合う」「死を正面から考える」という心の余裕を喪失してしまったと。常に死を想定し生きる事が大切。死に対する心構えを教えなければ、生きる事の大切さ、ありがたさは分からないと。

しかし、いざという時、救急車を呼ばないと云う気構えが出来るのだろうか。自信が無い。どんな時でも命に未練がある。


  
超入門 「相対性理論」 アインシュタインは何を考えたのか
福江純
講談社ブルーバックス

2019.3.31
アインシュタイン16歳の時の疑問「飛んでいく光の矢を、光速(秒速30万Km、1秒で地球7周半)で追いかけたら、光の矢はどうみえるのだろう」が相対性理論に辿り着く。

量子力学、曲がった空間、ブラックホール、宇宙の終焉まで、世界で一番分かりやすい「アインシュタイン」本との解説に惹かれ読んでみたが、何が分からないかが分からなかった。情ない。

アインシュタインは、ニュートンの考え方の基本、「絶対空間(空間自体は全く変化せず永久不変)」と「絶対時間(時間は宇宙のどこであろうが、一様に進む)」を否定し、「物体の存在によって空間が曲がる」と、「物体が運動する早さに応じて、時間の進む速さは変わる」と、あらゆる関係が相対的であると考えた。

我々の太陽を含み銀河系、約2000億個の星やガスからなる集まりは、やがてはガスも枯渇し、新しい星も生まれず、10兆年から100兆年ぐらいの未来、最後の星の光が消え、宇宙には闇のとばりが降りると。


2019.4月 
「新書太閤記(一)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.4.4
昭和14年から6年半に亘っての読売新聞連載小説、全11巻。民衆の上にある英雄でなく、民衆の中に伍していく英雄、衆愚凡俗を愛した秀吉の物語。

尾張の貧しい村に生まれ、猿と呼ばれた日吉。奉公勤めも続かず、16歳の時から針売りをしながら諸国を歩く。主選び程大事なものはないと知った日吉が、士官したのは、うつけの殿で通っていた織田信長。名も木下藤吉郎と改め、お草履取り 台所役人 炭薪奉行 厩方と出世をしていき、遂に一戸の主人として始めて家を構えるまでが綴られる。

何たって面白い。吉川英治の本は、読んで楽しい。筋書、展開の面白さに加え、名文なのがあっという間に読ませるのだろう。後、10卷、至福の時間が持てる。楽しみ。


「新書太閤記(二)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.4.9
西征の途に立った四万の今川軍を、鎧袖一触と見くびられた5千の織田勢が田楽狭間で破る。

普請奉行、足軽30人頭と出世をする藤吉郎だが、藤吉郎の願い、誓いは一国一城の主など考えもせず、いつも現在の与えられた職分に忠実に全うするほかない、人並みに人たろうとする事であった。そして寧子との婚礼、婿入りを果す。

本卷では、正に映像を見るような田楽狭間の阿鼻叫喚に圧倒される。また、寧子との婚礼の有り様は、当時の婚礼が手に取る様に描かれる。そして、寧子との夫婦としての誓いには、夫婦のあるべき姿として思わず目が潤む。


「新書太閤記(三)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.4.12
藤吉郎は、尾濃攻略の足溜りとして尾濃国境の洲股築城に信長三人の臣下が失敗した後、成功し、秀吉の名を信長より与えられる。また、藤吉郎は、いわゆる栗原山中七度通い、三拝九拝し竹中半兵衛を迎える。後に岐阜城と呼び改められた稲葉山城の戦いの後、藤吉郎秀吉は瓢の馬印を許される。母を洲股城に迎える。また、三好、松永の乱に趁われて諸国を逃げ歩いていた将軍義昭の密書を携えて信長に頼って来たのが明智十兵衛光秀。その後、信長軍で勲功の一、二を争うのは、秀吉と光秀となる。堺の街の独立自治する千宗易他の十人衆も登場する、

信長は、武門の奉公の一は、禁門の御守護、市民の平和の確保にありと義昭と共に大義の軍として上洛。信長は、朝倉攻めで北国遠征するも妹聟浅井長政の背信で総退却せざるを得なくなり藤吉郎が殿軍(しんがり)を務める中、京都に敗走する。

そうなんだ、ほんまかいなと、吉川英治流解釈に筋が通っているなぁ、流石だなぁと聞きかじりの断片の知識が繋がってくる。


 
「新書太閤記(四)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.4.16
観音寺城の戦い、家康活躍の姉川の合戦。信長を魔王とも言わせる事にもなった比叡山全山の焼討ち、八千にも及ぶ僧俗全ての大殺戮。総勢八万の上杉軍に浜松三方ヶ原犀ヶ崖での家康生涯唯一の敗北、と続く。信長は、信玄の死、義昭の放逐、室町幕府の終焉を契機に、朝倉、浅井攻めに。藤吉郎は、浅井小谷城攻略の功で、羽柴と云う性と浅井の旧領を与えられ大名の一人に、そして、長浜に築いた城に、母、寧子を迎える。

三方ヶ原の戦いで一番、二番槍で華と散った武士の、後に自害する母から、家康が乱世の武門の大義を知らしめられる件は、後の徳川の世を思わせる。一将の顔は万卒の顔、如何に歓んで死に得る戦いかが鍵を握るのだろう。
   
藤吉郎が、お市の方と三人の姫を小谷城から救い出す件は涙、涙。涙なしには読めない。二、三卷の信長主人公の展開が、一気に藤吉郎主役に。 


「新書太閤記(五)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.4.25
長篠の合戦での宿敵武田軍への壊滅的な打撃、越前門徒一揆の討伐、そして天下無比の大観たる安土城を築き信長は天下布武を目指す。また。中国征伐を羽柴秀吉に命じる。

綴られた戦況の詳しさに、しばし本を閉じて感激に浸る程の面白さ。ともかく面白い。


2019.5月 
「ニムロッド」
上田岳弘
文藝春秋3月特別号

2019.5.3
2018年下半期芥川賞受賞作品。仮想通貨の新事業立ち上げを命じられた男、その彼女の「中絶と離婚のトラウマ」を抱えた女、男同僚で小説家への夢に挫折したウツ病の男、自称ニムロッドの三人が登場人物。出版社の紹介では、「それでも君はまだ、人間でい続けることができるのか。 あらゆるものが情報化する不穏な社会をどう生きるか」、新時代の仮想通貨小説とあるが、全く理解不可能な作品。

芥川賞選考委員選評では、「稀にみる完成度の高い小説」、「小説の面白さ全てが詰まっている」とあるのだが、本のタイトル「ニムロッド」が、旧約聖書ノアの孫の名だとも知らぬ小生が、選考委員のように、この本を理解できる筈がない。私に云わせれば、この作品は作者自己満足の作品。もっと皆に理解可能なような展開が必要なのではと。

本作家の、2015三島由紀夫賞受賞作の「私の恋人」も全く分からなかった。


 
「新書太閤記(六)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.5.15
秀吉による中国征討も、抗戦二年、三木一城陥落以後、急速に秀吉軍威は戦線膠着から振ってくる。

秀吉が太閤と呼ばれる所以、そして、北条氏、室町幕府末に至る暴政を私した時代が繰り返され治乱久しいものだったが、天下安泰 朝廷の奉公人をもって、武門自信の本分とした信長が語られる。

秀吉が正客の信長自身の手前による茶碗に落とす子柄杓一杯のわずかな湯の音が、とうとうと滝つぼにおとす千丈の飛爆とも大きく聞えるとお茶の凄味が語られる。


「新書太閤記(七)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.5.22
越後上杉、甲州武田、叡山、本願寺等が滅び去り、信長の天下布武も、備中高松城が陥ちる否かに掛かり、秀吉は信長の出馬を要請する。ここで信長一代の失策となってしまう。日本一の利口者、明智光秀が、私憤私恨から、日本一の莫迦をやったと本能寺の変が詳述される。 


2019.6月 


「新書太閤記(八)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.6.3 
秀吉は備中・高松城水攻めより取って返し山崎の戦いで逆臣光秀をを討つ。信長跡目争いで、柴田勝家対秀吉の確執が語られる。本能寺の変から四ヶ月、跡目争いの清州の会合から百日、秀吉が主唱し信長の大法要が行われ信長の偉業を継ぐのは秀吉と印象づける。

秀吉の護符は「離。あらゆる事々の絆を断ち切って一切白紙の心になって離れる心掛け。生死ももちろん「離」の一字に任せていた。


「愛と別れ」
内田康夫・早坂真紀
短歌研究所

2019.6.17
脳梗塞で執筆活動が出来なくなった内田康夫 いたわる妻の二人の夫婦短歌。 31文字に託された思いに心うたれる。

「わたしには ふるさとがない どこにもない あなたの胸が いつもふるさと」
「待ちかねた 桜が咲いたと告げたとき 写真の夫(つま)の 頬がゆるんだ」


 
2019.7月

 
「世界史で学べ 地政学」
茂木誠
祥伝社黄金文庫

2017.7.15
予備校の先生が書いた世界の戦いの歴史。世界を9ブロックに分けて大変分かりやすく解説されている。有史以来、国際紛争の主要因は国家間の生存競争であり、これを正当化させるために宗教やイデオロギィが利用されている。国家間の対立を地理的条件から説明されている 

・2050年にはアメリカ人口に占める白人人口が50%を切り覇権国アメリカ時代は終わる。
・悪魔に変貌した中国が目指す海洋進出戦略。
・侵略されつづけた半島国家 韓国。
・欧米の列強による植民地化、分割支配された東南アジア諸国(タイを除いて)。
・2020年代後半、インドの人口は14億人に達し世界最大となる。
・英仏露二重外交に起因する 永遠の火薬庫中東は、民意を反映した国境線の引き直しをしない限り混乱は際限なく続く。
・ローマ法皇を神の代理人とするローマ・カトリック、偶像崇拝を禁ずるプロテスタント教会
・国家帰属意識よりも氏族意識の収奪された母なる大地アフリカ。

そして、日本は憲法改正、自主防衛を実現しj東アジア自由主義諸国のリーダーになる事と。


      
「世界史とつなげて学べ超日本史」
茂木誠
角川

2019.7.23
「そもそも日本人はどこから来たのか」から、「徳川の平和」、そして「明治維新を可能にしたもの」迄の13章。
東南アジアや世界の動きのなかで日本史をみるとの謳い文句なのだが、弥生時代やら、日本書紀の建国神話の話の話に偏重。

日本史を学ぶと云う事にならない。期待を裏切られた。


「未来の年表」人口減少日本でこれからおきること
河合雅司
講談社現代新書

2019.7.30
24時間社会からの脱却から、非居住者エリアを明確化等の10の提言。
2015年、日本人口1億2700万人が、40年後には、9000万人を下回り、100年も経たぬうちに5000万人に減る。日本の未来図は衝撃的。 身寄りのない高齢者が町に溢れ、生活保護受給者激増で国家財政パンク.。2050年ごろには、国土の約2割が無居住化と恐ろしい事が書かれている。

拡大路線の成功体験と決別し、戦略的に縮む事と提言。


 
2019.8月 

「新書太閤記(九)」
吉川英治
講談社歴史時代文庫

2019.8.15
信長跡目争いは、宿老として重きをなしていた柴田勝家と秀吉の争い。勝家の甥、佐久間玄藩允の驕りが、賤ヶ獄、柳ヶ瀬の戦いで秀吉の勝利となり、天下大乱の乱れを救うは秀吉なりとなってくる。

総勢一万五千の真っ先を疾駆していくのは秀吉と熱く語られるのだが、信長亡き後は歴史詳述書の感じが強く、読み続けるのに時間が掛かる。


「光抱く友よ」
高樹のぶ子
新潮社

2019.8.30
1983年芥川賞受賞作品。大学教授を父に持つ引っ込み思案の優等生と、アル中の母親を抱える不良の17歳の女子高生二人の物語。
見事な筆致。  


2019.9月

 
「悪寒」
伊岡瞬
集英社

2019.9.5
「あの男が死んでよかったと、今でも思っている」との法廷での被告人発言で始まる殺人事件ミステリー。
単身赴任留守宅の妻から「家の中でトラブル、妹は警察が来るまで掃除しない方が良いとの」謎のメールが届く。続いて、警察から「家のリビングで男を殴り殺した奥さんを緊急逮捕した」との電話連絡。その男は、自分の上司である役員で、妻を妊娠させ、巨大製薬会社役員と従業員妻との不倫凄惨殺人事件と世間の注目を。
二転三転の工夫はあるものの、くだらないミルテリーの感、拭えず。どうも私には、ミステリーは、読む時間が勿体ない。


「AI資本主義は人類を救えるか」文明史から読みとく
中谷巌
NHK出版新書

2019.9.20
イスラエルの若き歴史学者の世界的ベストセラー,「サピエンス全史」と「ホモ・デウス」をひも解き,「AI」により劇的な変化を遂げる中、今後、我々が目指すべき社会を提案している。刮目に値する提案。

私自身,「原子力発電」の否定は非現実と思っていたが、この本を読んだ後では、原子力の発想自体が怖いものと知る。

現代社会において最も強力な「想像上の虚構」とは、「資本主義」である。「投下資本に対 するリターンを最大化する」という「資本の論理」を現代人の多くが信じている。「想像上の虚構」として「資本主義」は、グローバル資本主義というかたちで現代世界を 覆っている。その矛盾は、資源問題、環境破壊、異常気象、貧困問題、格差拡大などのかた ちで現れている。その反動は反グローバル主義となって、トランプ現象、英国の EU 離脱、 ヨーロッパのポピュリズムといったかたちで現れている。人類こそ、異常な気候現象を引き起こし、自らの生存を脅かす環境破壊を生みだしている張本人。かつての巨大隕石の落下、小惑星の衝突や火山の大噴火に匹敵するような地質学的な変化を地球に刻み込んでいる。外的な要因によって変化してきた地質年代が、人為起源の地質変化となる「人新世(じんしんせい)」の到来し、人間は自然からの逆襲を受けている。

「外部」を排除(搾取)することで利益を確保してきたのが資本主義社会。「自己利益の為に他者を排除する」思想を改め、「これまで排除の対象としてきた他者を包摂する」という思想を、これからのAI資本主義のなかに組み込んでいくのが課題。「社会的包摂」は人間の多様性を認める だけでなく、あらゆる人を受容して、その潜在的創造力を顕在化させるという積極的な考え 方である。「包摂の論理」は資本主義を否定するものではなく、資本主義を再生さ せるもの。

その他、心に留めておきたい著者指摘事項。

 ・物理的には存在していない「想像上の虚構」、宗教、国家、人権、民主主義といった「虚構」が人類の゙発展のカギだった。本質的な価値のない強力な虚構こそ「貨幣」。

 ・私達は、特定の歴史的現実の中に生まれ、特定の規範や価値観に支配され、特定の政治経済制度に管理されている。自らの「文化的偏り」を理解する必要がある。

 ・世阿弥「風姿花伝」の「離見の見」は、自分を離れて自分を客観的にみること。

 ・AIが取り仕切る新しい資本主義「AI資本主義」では、高度な知的労働をAIに奪われる人間は、「無用者階級」に転落する恐れがある。理性に基づく個人の自由意思から、AIが提供する膨大なデーターと分析力に頼り、人間が自身の意思決定をデータ(AI)に委ねるようになる。

・日本では、人間の間に大きな断絶がない。階級社会的というより、共同体的性格、資本の論理より共同体の論理が色濃い。


2019.10月 
「孤絶」家族内事件
読売新聞社社会部
中央公論社

2019.10.5
2016年から2018年1月の間、読売新聞に連載された「孤絶・家族内事件」。

少子高齢化と核家族化、都市化などで地域社会の結びつきの希薄化し、孤立した家族が周囲に相談できないまま問題を抱え込み、生じた悲劇、事件。

生々しい心の叫び、出口のない家に閉じ込められたような絶望、孤絶でも言い表しきれない程の壮絶な日々が勝たれれる。

やるせないの一言。


「サピエンス全史」上・下 文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ(柴田裕行 訳)  
河出書房新社

2019.10.25
250万年前、東アフリカで誕生した取るに足りない動物だったサピエンス、人類が、どうやって食物連鎖の頂点に立ち、万物の霊長を自称し地球を支配するに至ったのかの道のりが語られ、将来が見据えられた本。

「文明が発達するほど、我々は不幸になっていく。なぜならその文明は「虚構」の上にもたらされたからだ」と筆者は云う。当たり前と思っていた事が、何々そうなのかと目から鱗の世界的ベストセラーが頷ける本。難解極まりない本でもある。

一万年前に始まった農業革命で かつて狩猟採集をしながら小集団で暮らしていたサピエンスは、定住し統合への道を歩み始める。見知らぬ人どうしも、共通の神話を信じることによって何億のも民を支配する帝国を築くことができた。

貨幣、帝国、宗教といった「想像上の虚構」が人類発展の鍵で、強力な虚構こそ「貨幣」。その貨幣で、国や文化の境を越えた単一の貨幣圏が出現し、全世界が単一の経済・政治圏となる基礎が固まった。 

企業、法制度、国家、国民、さらには人権や平等や自由までもが虚構と、我々の価値観を根底から揺るがしてくれる。言われてみれば、正にその通り。この「虚構」という事を知るだけでもこの本を読む価値がある。正に「思索」とは何ぞやと考えさせられる。

「人々が自分の人生に認める意義は、如何なるものも単なる妄想にすぎない」と筆者は云うが、腰を据えて考える必要がある。


 

2019.11月 
「大きな鳥にさらわれないように」
川上弘美
(株)講談社

2019.11.15
今はもうない日本と呼ばれていた国での、一話毎に語り口の変わる連作風の物語。「四度目の夫が働く工場では、食料以外に子供達も作っている。人間由来の細胞からは、突然変異が多く子供の製造がうまくいかない。私は私と二人で暮らし始めた。生まれたばかりの頃は十人の私がいた。今は、三人の私、私はこれからも生まれ続けるけど、私はもうじき死ぬ。」と、奇怪な謎のようなエピソードが、次々と語られる。

そして、遂に謎解きが。「人工知能に寄生された人間が誕生」と。

ネットでは、「凄まじい、美しい、そしてただただ面白い」との意見もあるが、小生には、読み続けるのが苦痛だった。何の興奮も、何の啓示も、何の面白みも無かった。

しかし、今後訪れるかもしれない世界、小生の理解を超えた世界が書かれている意味ではじっくり読む必要があったのかもしれない。


2019.12月 
「日曜俳句入門」
吉竹純
岩波新書

2019.12.6

日曜俳句とは、新聞、雑誌、テレビ等のメディアに投句し公表された作品を云い、乱れた言葉が踊っている今、5・7・5の十七音という節度のある調べをを推奨する本。こういう世界を楽しむ感性を育てたいもの。

お気に入りの句。
 ・ 恋猫の10000ボルトの瞳かな
 ・ 無為無策曝す建屋や梅雨に入る
 ・ わたくしがもう一人ゐる冬夜汽車 (筆者自作お気に入り作品)

  (日経 19.12.5 朝刊より)
   ・ 知らずしてわれも撃ちしや春爛(た)くるバーミサンの野にみ仏在(ま)さず(上皇后美智子さまの歌)

「罪と祈り」
貫井徳郎
実業之日本社

2019.12.15
元警察官が隅田川で溺死体でみつかる。その側頭部には殴られた痕があり殺人と断定される。その元警察官の息子と幼馴染の刑事の二人が、その殺人の謎を追う。その幼馴染の父は、溺死体でみつかった元警官の親友で、幼馴染が4歳の時、隅田川で自殺をしていた。

殺された元警察官の謎を追う現在の話と、元警察官の若い時の過去の話が、交互に語られる形で物語は展開する。

筆者は、「罪を犯した人が捕まったり刑に服すこと以外での償いの形を書いてみたかった」というが、その罪は、命で贖わなければならないと悔やむ程の正義感を持つ男が犯罪に走るというのは、どうも解せない。

過去の事件が、現在でその概要、結末が語られてしまって話の展開に緊迫感に欠けてしまうのも残念。


「格闘」
高樹のぶ子
新潮社

2019.12.25
「格闘」とのタイトルで、柔道家の物語と思いきや、男と女の物語。全日本の体重別で優勝した柔道家の、柔道界から放逐される事も厭わず、高校時代の恩師からの奥さんを奪ったり、神社の御神木を伐り倒す神にも抗う生き方、そして、「迷う苦しみに落ち込まないまま、人生をやり過ごすには、結局のところ、いかに希望を断つ断裁の潔さ」、「希望とは残酷のもの」と語られる。
芥川賞選考委員だった人の作品とは思えない。技巧に走りすぎ。


  

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