「占星術殺人事件」
島田荘司
講談社NOVELS

2013.9.3
2・26事件の昭和11年の殺人事件のナゾナゾ話。画家、梅沢平吉が遺した手記には、六人の娘の体から一人の完璧な女性を創る計画が書かれていた。その平吉が密室で殺された後、梅沢家の六人の娘たちが、体の一部分が切り取られた死体となって日本各地から発見された。

これは小説でなく、ナゾナゾ本である。大半が物語性のない手記で、可笑しくも面白くもなく読み続けるのがしんどい。

改訂完全版「占星術殺人事件」
講談社文庫

2013.8、発行の文庫のあとがきで、作者は、完全版化と大上段に構え、次のような恐ろしい事を言っている。
・この作品は、日本に新たな本格の時代を産み落とす陣痛と、公的な存在となり、時代の代弁者としての力を宿し、国を代表してしまった。
・文庫化に伴い、全文章をローラー的に修正し、流れやすくした他、死体発見の表を加えたりの加筆修正をした。

この本は、謎解きだけの話。興奮も、感激もなく、加えて面白くない点で、改訂完全版も読もうとの気が起こらない。
 
「ジウ 」 (工事中)
誉田哲也
中公文庫

警視庁特殊犯捜査係 [SIT] に所属する、心優しく惚れっぽい27歳の門倉 美咲と、高校時代、レスリングと柔道の両方で全国大会出場の経歴を持つ筋肉オタクの25歳の伊崎 基子の二人の女性警察官が、「新世界秩序」と云う巨大な闇組織に挑む警察小説三部作。

2013.9.7
「ジウ T」 警視庁特殊犯捜査係 [SIT]
白昼発生した人質籠城事件を境に、美咲は碑文谷署へ飛ばされ児童誘拐事件の捜査本部に加わることになり、基子は女性初のSAT隊員に任じられ、児童誘拐事件黒幕、ジウに挑む事となる。基子は,たった一人で五人の犯人を打ち倒し、見事人質を救出しジウに狙われる事に。

馴染みのないSATの訓練内容等の実態が分かって興味深かった程度でそう面白くもない。

2013.9.10
「ジウ U」 警視庁特殊急襲部隊 [ SAT ]

うち続く児童誘拐事件の実行犯の取り調べを進める中、美咲は、「新世界秩序」と云う巨大な闇組織と事件の係りを疑い始める。一方、基子は、連続児童誘拐事件での活躍で巡査部長に特進し上野署に配転するも、爆破事件で壊滅したSAT第一小隊再編成で、SAT制圧一班の新班長に任命される。

読み始めの「プロローグ」のグロさで不快になる。この作者は、何故グロなのか、話が進むと、分かるような計らいをするのだが、この作品に限っては、その計らいがなく、この作品は、グロの不快が最後まで続く。ジウVでこの不快さが解消される事を望むばかり。

2013.9.14
「ジウ V」 新世界秩序 [ NWO ]
歌舞伎町に通じる31ヶ所の道路が、すべて貨物車両などで封鎖されると同時に、選挙応援の為の街頭演説中の総理が拉致され、総理を人質に、歌舞伎町の治外法権が要求され、新世界と云う新しい秩序がつくられようとする。

総理大臣の拉致、監禁、歌舞伎町治外法権等々、奇想天外な話の展開だが、テンポ、歯切れが良く、面白さこの上ない。ただ、決着が、あっけなく甘っちょろい点が不満。
「わりなき恋」
岸惠子
幻冬舎

2013.9.12
国際問題ドキュメンタリー作家、70歳の伊奈笙子が、パリ行きの国際線ファーストクラスの隣り席に偶々座った、一回りも年下の大会社役員、九鬼兼太と、理屈、分別を越えたどうしようもない、わりなき恋におちる話。

夫の死からほぼ30年独りでいた笙子に訪れた時ならぬ恋で、男の囚われ人となり、今までの自由と孤独が壊れかけていく。心は未だ女なのに、体は女として廃墟になってしまっていた苛立ち、謙太の家族、妻にたいする遠慮、謙太が週末には家族の元に帰ってしまう侘びしさ、謙太の第三の女への嫉妬、等々、笙子の心の移ろいが綴られる。

物語でなく、ただの日記だね。揺れ動く女心が、まとまり無く綴られているだけ。私小説はブログの延長で、物語でない。幻冬舎は、タイトルの珍しさで本を売ってきたが、芸能人の名で安易にベストセラーを創ろうとしている。
 
「十角館の殺人」
綾辻行人 
講談社

2013.9.17
ある大学の推理小説研究会メンバー七人が、四方を断崖絶壁で囲まれた角島と命名された小さな孤島にある十角形の奇妙な館、十角館を訪れる。その館は、半年前、謎の四重殺人と言われた事件で、その島の屋敷焼け跡から、死体で発見された屋敷主が持っていたものだった。また、その主の娘は、その大学の推理小説研究会のメンバーでもあって、研究会の一年前の新年会の席上で死亡していた。そして、十角館には、七枚の殺人予告のプレートがあり、次々と学生たちが殺されていく。

本格ミステリーとして、人気のある作品のようであるが、確かに面白さと云う意味では面白く、読書を存分に惑わしてはくれる。ただ、丁寧に字面が並んだと云う感じで、行間から作者の意気込み、情熱と云ったものが感じられず感激、興奮はない。作者の処女作のようだが、他の作品は読もうとの気にはならない。
百舌(もず)の叫ぶ夜
逢坂剛
集英社

2013.9.19
1986直木賞候補作品。公安警察シリーズ二作目。能登半島の突端にある孤狼畔で発見された記憶喪失の謎の男。新宿での爆発事件の巻き添えで妻が死亡し、その真相を単独で捜査する公安特務警部。爆弾事件担当の本庁捜査一課警部補。事件に絡む極右団体。錯綜した人間関係の中で巻き起こる事件、事件。そしてあっと驚くどんでん返しの帰結。一級の娯楽作品。

渇いた、無駄を削ぎ取った綴り、登場人物の人となりが生き生きと描かれ浮かび上がる魅力的人物像、迫力ある、巧みな筋運びで引きずり込まれる。綴りに、正に作者の魂、覇気が込められている。好きになるね。 
「第三の時効」
横山秀夫
集英社文庫

2013.9.23
F県警捜査一課一班から三班の刑事達の活躍、警察小説の連作、六編。警察小説ナンバーワンの呼び声高いが納得の傑作集。犯人との、また刑事同士の緊迫した闘い、人間ドラマが描かれる。巧みな伏線、抉りだされる人間の弱さ、二転三転する展開に引き込まれる。短編でありながら圧倒的迫力、緊迫感、ミステリの謎解き等々、天下一品。   

「沈黙のアリバイ」 法廷で突然アリバイの主張を始めた。犯行後の詳細を極めた犯人の供述こそが偽りだった。
「第三の時効」 十五年前の殺人事件の時効。犯人国外滞在等の時効の停止「第二の時効」。時効までに起訴すれば、初公判迄の間は時効が延びる「第三の時効」を利用し、犯人に三重四重の罠を仕掛ける。
囚人のジレンマ」 逮捕後、別の場所に囚われている共犯者の自供の疑心暗鬼に囚われる犯人。
「密室の抜け穴」 厳重な監視の密室から逃れた容疑者と刑事達の葛藤。
「ペルソナの微笑」 十三年前の青酸カリによる債権取り立て屋殺し時効まで後二年、ホームレス青酸カリ殺し事件が発生。 
「モノクロームの反転」 殺人現場から逃げ去った白い車。反射光で輝く光。
「ある殺人者の回想」
勝目梓
講談社

2013.9.27
76歳で二度目の殺人を犯した緒方一義は刑務所で、ろくでもないボロくずみたいな、ただ長かっただけの80年の人生を振り返る。九州伊万里湾に浮かぶ宇根島の炭坑で生まれ、12歳の時、父は落盤事故で死亡。小学校を出て直ぐ炭鉱坑夫に。隣りに越してきた若夫婦の妻、久子に一目惚れする。一方、ヤクザで酒乱の久子の夫が、一義の母を強姦した事で、ツルハシを頭に打ち込んで殺してしまう。20歳で人殺しの罪を背負った人生は、そりゃもう惨めで辛くて肩身がせまく、ただの棒っきれみたいなものだった。人が生きていくって事は、自分がまいた種の始末をつけていくって事。

久子さんを思う気持ちが最後までうすれなかった事が、やけを起こさず生きてこられたと云うのだが、やるせなさが伝わらない。読むのが退屈。虚構のダイナミズムが感じられない。 

作者は、芥川賞候補、直木賞候補となるも芽が出ず、娯楽小説に転じた。官能と暴力,復讐の世界をえがき,バイオレンス作家と言われたが、ここにきて又作風が変わってきたか。 
「半落ち」
横山秀夫
講談社文庫

2013.9.29
2002年直木賞候補作品。県警本部現職警察官が,、アルツハイマーで毀れていく妻が不憫で絞殺したと自首。しかし、殺害から自首までの二日間の行動について黙秘し語ろうとしない。謎の二日間の解明に係った、県警捜査一課警視、地方検察庁検事、新聞支局記者、居候弁護士、裁判官、刑務官6人が、それぞれの立場で、その真相に迫るそれぞれの苦悩の物語。

緊迫した展開、それぞれの立場での生き様に魅了される。一級品だね。大変達者な作家。ミステリーとして成立しないとの理由で直木賞受賞にならなかったようだが、文句をつけたあの女流作家は、その作家の一作品を読んで不愉快になり、もう二度と読むまいと思った人。何故こんな人が選考委員なのか理解に苦しむ。人間、見てくれでも判断できるね。

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2013.9月