(本タイトルのフォント青色の書籍が、もう一度読みたい本
「水上勉全集 1」 中央公論社 生の哀れ、おろかさに悶絶する人々の話と作者自身が云うこの全集、7作品、読み終えるのが惜しいと、読んでいる最中、しばし全集を閉じ作者が語る哀しい世界に浸る。全ての作品がもう一度読みたい本なのだが、敢えて一作品を選ぶなら「盲いの人」か。人間の哀れがひしひしと伝わる。本を読む楽しさを味あわせてくれる。 「雁の寺」 直木賞受賞作の雁の寺につづく雁の村、雁の森、雁の死を加えた四部作品。若狭寺大工の異形の子供が、十歳の時、母親からはなれて寺に出され、その後、五年のあいだ生のおろかさ、哀しさを抱え転々流浪する物語。 「案山子」 2021.12 「桑の子」 若狭大飯郡に伝わる釈迦釈迦という奇妙な行事の話。貧しい村での子供を間引く話。 「盲いの人」 丹後の袖志から嫁に来て間もなく失明した女の話。 「棺」 北陸街道山奥の作田部落で嫁入りの晴着を着て頸を括った婆さんの話。 「美濃のお民」 幼女として紙漉をさせられたお民の話。 「うつぼの筐舟(はこぶね)」 2021.12 |
2022.2月 |
「五番町夕霧楼」 中央公論社 中央公論社水上勉全集2より。19才で母の治療費を稼ぐために、京の五番町で生娘から娼妓になった夕子。そして早く父を失い与謝の某寺に養子となり、中学を出ると鳳閣寺にだされ、どもりと貧相な陰気さで、本山でも小僧仲間から毛嫌いされた学生僧。その二人は、京都北部から北に向かって、うす墨色に棒を倒したように寝ている与謝半島、与謝で育った心をゆるしあった幼馴染み。苦労するために生まれてきた二人の切ない物語。 夕子は吐血し入院。学生僧には、鳳閣の優美さが、のろわしいものと悲劇を引き起こしていく。 始めての水上勉の長編だが、短編は、読む終えるのが惜しい感じで読んだが、この長編は読むのに努力が要った。 |
2022.3月 |
「神の悪手」 芦沢央 新潮社 将棋に係わる5短編集。年4人しかなれない将棋棋士の特異な世界の話だからと読み始める事となったが話の筋がなく読み続ける事が出来ない。物語になってない。2短編でギブアップ。出版されるのが不思議。 「弱い者」 復興支援イベントでのプロアマ祈念対局の話。不気味な物語のプロローグと思われたが。唐突に終わってしまう。 「神の悪手」 年齢制限、最終年度を迎えた奨励会会員の話だが全く理解不能。 |
「日没」 桐野夏生 岩波書店 携帯も繋がらない茨城県内で囚われの身になり、誰も知り得ない状況で監禁されてしまう。拷問、殺人も行われてている七福神浜に閉じ込められ恐怖の物語が始まる。 桐野節炸裂、さてさて、どう展開するのか、どう決着を迎えるのか最後まで恐怖の緊迫感のなか読めるのだが、恐怖感を感じさせるだけの物語で終わってしまっている。 |
2022.4月 |
「非色」 有吉佐和子 河出文庫 敗戦後の占領期、米兵相手のキャバレーで働き始め、そこで出会った黒人伍長と結婚。日本での親も含め周囲からの蔑視から逃れるため、娘と共に渡米するも、ニューヨークでの生活難とアメリカに潜む差別に苦闘する物語。アメリカ人でないプエルトルコ人と結婚した大和撫子の辿った悲惨な話も。 始めての有吉佐和子作品で、筆致も巧みで、久し振りに好きになりそうな女性作家に会えたと思ったが、途中で読む気力が失せた。 |
2022.5月 |
「海をあげる」 上間陽子 筑摩書房 書店員に選ばれるノンフィクション大賞2021受賞作。12編の最初の「美味しいごはん」を読み、久し振りに、心安らぐ優しい本だと思いきや、とんでもない大間違い。本作は、沖縄の若い女性を巡る調査記録(2017.2~2019.12)。調査で面談した若い女性たちが経験している虐待、若年出産、貧困を共に思い悩む、解決への日日の記録。 「聞く耳を持つ者の前でしか言葉は紡がれない」と云う作者。しかし、著作の隠れた伴走者だったのは、真っ直ぐに前を向いて歩く幼い娘であったと、本作に度々登場する幼子との純朴な、真実の、忖度のない会話が、我々が失ってしまった大切な物を思い起こさせてくれる。 著者は、あとがきで、大事なものを渡すと云う意味で「海をあげる」と、著者の絶望を読者に託すと結んでいる。 |
2022.6月 |
「飢餓海峡」 水上勉 中央公論社(水上勉全集第6巻) 青函連絡船、層雲丸転覆の事故死者の中で、引き取り人のいない死人二人。積丹(シャコタン)半島、岩幌大火の出火元の質屋一家惨殺事件。網走刑務所仮釈放者2名。大湊の淫売宿の酌婦に大金を渡した大男と、事件が続くが、こうくれば犯人捜しのミステリーと思いきや、のっけに犯人登場。 大湊、淫売宿の酌婦の、東京に出て10年、相変わらず亀戸遊郭で娼妓をせざるを得なかった、あまりにも侘しすぎる生涯、また成功者に写った男の、最後には、死によった運命に生きねばならぬ生涯が、これでもかこれでもかと語られる。一体こんな生涯があっていいものかと叫びたくなるような生き様が描かれた人間小説。決してミステリーなどではない。 週刊朝日、一年掲載打切り後、半年かかって530枚加筆された水上勉渾身の一作。 |
2022.7月 |
「好色」 水上勉 中央公論社(水上勉全集第12巻) 親交のあった川上宗薫との仲違いの意趣返しで書かれたもの。 人間、助平でないと男も女も信用できないと、手あたり次第に身近な女たちと関係する常軌を逸した女遊びをする川上宗薫モデルの高校講師と対比して、水上勉は、「私の性の歴史を一貫して流れる原始的な風景は、総じて母の像につながる若狭の貧しい生活であった」と、また「君に劣らぬ好色野郎だ。育ちが悪いせいか、いつも、隠微で、暗い影から覗くような性の受けとめ方しかできない性分なのだ」と。 また、水上勉は、あとがきで、この好色は、「もてあましている厄介な問題を、物語ふうに書いてみたいと精一杯にその当時に考えを書いたもの」と云っている。 |
2022.8月 |
「砂の女」 阿部公房 新潮文庫 砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家の女とその部落の人々により、その家に閉じ込められ、脱出に懸命となる男の話。 ただし最初の3ペーシで゙、「八月のある日、男が一人、行方不明になった」で始まり、そして「七年たち、民法第三十条によって、死亡の認定をうける事となったのである」と、この小説のあらすじが明かされるいるのだが、最後の最後までひきつけられる。比喩の巧みさにもひきつけられる。書籍断捨離後、漱石「草枕」に次いで文庫購入となった。 20数か国で翻訳され、フランスでは、1967年最優秀外国文学賞を受賞している。 著者本人は、「砂というのは、むろん、女のことであり、男のことであり、そしてそれらを含む、このとらえがたい現代のすべてにほかありません。」と。また、「人間精神の根底にひそむあるものを暗示する」そういった本を書いてみたいという思いで、「砂の女」を書き始めた、と述べている。 |
2022.9月 |
「方丈記」 鴨長明 角川ソフィ文庫 鴨長明、58歳の時の執筆。鴨長明は、葵祭で有名な京都下鴨神社宮司の御曹司として生まれ、18歳の時、父が病死。跡目相続に敗れるなか、大火災、竜巻、飢饉、大地震といった大災害に遭遇。 「行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし」 歌人としては、後鳥羽院の優遇をうけるも、54歳の時、日野の外山に方丈の庵を建て隠居。「おほかた、世を逃れ、身を捨てしより、恨みもなく、恐れもなし、命は天運にまかせて、惜しまず、いとはず。一期の楽しみは、うたたねの枕の上にきはまり、生涯の望みは、折々の美景に残れり」。「仏の教え給ふるおもむきは、ことに触れて、執心なかれとなり」と、この世の無常と身の処し方が綴られる。 |
2022.10月 |
「水木さんの毎日を生きる」 水木しげる 角川SSC新書 太平洋戦争で片手を失うという過酷な経験をした、2012年に90歳を迎えた水木さんの「生きる知恵」。 昭和18年、21歳で召集令状 ラバウルの出征。翌年、前線小隊が襲撃され、水木さん一人生き残る。マラリアを発症、寝込んでいるときに爆弾で左腕を失う。昭和21年、日本に復員。36歳でデビュー作を発表。 世の中は、見えないものの力が作用している。眠りたいだけ、眠れる幸せ。笑えない人生は、つまらない。不安がる人間は、今を懸命に生きていない。文句は、成功しなかった者の言い訳にすぎない。幸せの前提は、生きる勘があるかどうか。人間自覚することが大切。運と勘がそろうことが、幸せへの道を踏み出す条件。世の中の8割の人は、一生ガツガツしている。好きな事をやっていないから、9割以上の人が不満に満ち満ちている。好きな事が出来る事の幸せ。妖怪よりも自分の死のほうが怖い。経験は人をつくる。人間の命には、半分は運。幸せは向こうからやってこない。本人が納得して満足すれば、それが幸せ。 水木さんは、岩波文庫「ゲーテとの対話」三巻セットを戦地に持っいき耽読したという読書家。生きる支柱になったとの事。 ゲーテとの対話、二度目の挑戦だが、どうも小生には興味がわきそうにもない |
2022.11月 |
「What is Life」 生命とは何か ポール・ナース(竹内薫 訳) ダイヤモンド社 2001年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した遺伝学者、細胞生物学者による生命の謎、生命を定める原理を教えてくれる必読書。それぞれの知識レベルによって理解の度合いが変わるのだろうが、小生は二度読んだのだが、読むたびに新たな事に気づかされる。でも、まだ半分も理解できてないに違いない。 常に無秩序や混沌へと向ってゆく森羅万象の中で、生き物たちが、どうやって、こんなにも見事な秩序と均一性を何世代にもわたって保っていられるのか、これが大問題。世代間で忠実に受け継がれてゆく「遺伝」を理解する事がた鍵と。 「1.細胞 2.遺伝子 3.自然淘汰による進化 4.化学としての生命 5.情報としての生命」という五つの面から、生命とは何かという謎に迫る。 1.細胞 生きとし生けるものは、一個の細胞か、あるいは、多くの細胞からできている。人の30億とも云われている細胞全てに、最低一つの微生物が棲んでいる。誰もが微生物の細胞を抱えている。人は誰しも、切り離された存在でなく、人の細胞と微生物細胞が絡み合い、絶え間なく変化し続ける巨大なコロニーなのだ。全ての動物は、生命の完璧な特徴を備えた「命の単位」の集まり。細胞は、すでにある細胞が二つにぶんれつする事でしか作られない。細胞の中核をなすのが遺伝子。細胞が自分を作って編成するために必要な命令を暗号にする。 2.遺伝子 遺伝子は一つ残らず一対で存在。卵子と精子には染色体の半分があり、二つが融合して受精卵ができるとき、全て揃った数の(人間では46個)染色体が作られる。その中心部に切れ目のないDNAがある。我々の身体の数十兆(30兆個とも、60兆個ともいわれる)の細胞の内側でドクロを巻いているすべてのDNAを繋ぎ合わせたら、200億キロ、地球から太陽を65往復できる長さになる。遺伝子の変異、遺伝子なしには存在しない。繁殖する為に必要な遺伝命令を受け継ぐ必要がある。 3.自然淘汰による進化 新しい種へと進化 自然淘汰は適者生存、競争できない個体の排除に繋がる。自然淘汰には、1.繁殖する能力 2.遺伝システムを備えている事 3.その遺伝システムが、変異を示し、その変異が受け継がれる。果てしなく変化し続ける生命体、さらに自然淘汰が効果的に機能するためには、生物は死ななければならない。次の世代が、古い世代に取って変わらなければならない。細胞が制御不能なまま分裂するのが癌。 4.化学としての生命 代謝は生命の化学反応 5.情報としての生命 情報は、あらゆる生命の中心にある。遺伝子組み換えと合成化学により、生命を再編成し別の目的に向かわせる事ができる。 生命とは何か 自然淘汰を通じて進化する能力を有するもの。。 一つ目の原理 進化するためには、「生殖」し、「遺伝システム」を備え、そのシステムが「変動」する必要がある 二つ目の原理 生命体が「境界」を持つ物理的存在 三つ目の原理 「生き物は化学的、物理的、情報的な機会である」ということ 人は、自らを永続させ、自らをコピーし、最終的に自然淘汰によって進化する。自らの存在に、「気づいて」いる生き物は人以外には見当たらない。 |
2022.12月 |
「永六輔 大遺言」 さだまさし 永拓実 小学館文庫 マルチタレントの元祖、永六輔。一日、100枚以上のハガキを出して、受け取った人を奮い立たせていた永六輔の心を打つ言葉集。 男は恥ずかしい事をしちゃいけないよ。 愚痴らない、ひけらさない。生きているだけで面白い。曲った事のない角を曲がったら旅が始まる。自分が粋である事を優先。人間、自分で変えられない時は、変えて貰えばいい。旨くいかない時は、人に触れ、ぶつかる事が大事。簡潔さをもってよしとする。悪口を言わない程度の忙しさは必要。他人と比べても仕方ない。自分の能力と自分がやっている事を比較しないといけない。他人の事が気になるのは、自分が一生懸命やっていないからだ。人間の生と云うものは一瞬。やりたい事を存分に楽しもう。自分にとって何時死ぬか、どう死ぬかが最大のテーマ。自分の好きなように楽しく生きればいい |
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