「ホテルローヤル」
桜木柴乃
集英社文庫

2013年直木賞受賞の7連作短編集。わざとらしい言い回しで二作品目で読むのが嫌にった。
「シャッターチャンス」 恋人から投稿ヌード写真の撮影を依頼される女
「本日開店」 貧乏寺維持の為、檀家達と情を通じる住職の妻。本日開店とは何と品のない題名か。


 
「星々の舟」
村山由佳
文春文庫

2003年直木賞受賞の6短編連作集。女流作家にしか書けないどきつさについていけない所があるが、綴りの巧さに惹かれる。面白くなくはないが、肌合いが合わない。3作で止め。
「雪虫」 兄妹の近親相愛
「子供の神様」 兄姉の秘密に反発する末っ子
「ひとりしずか」 兄との秘密が露見し婚約者と別れる長女


 
2021.2月 

「ポケット詩集」Ⅰ、 Ⅱ、Ⅲ
童話社(田中和雄編)

和歌の種は人の心にある、人の心が言葉になって他の人に呼びかけていく(紀貫之)。どのページでも良い、この詩集を開いて読むと、優しい気持ちになったり、励ましになったり、諭してくれたり、様々に導いてくれる。
断捨離で本を捨てた後、購入したのは漱石の「草枕」以降、二冊目。
詩の美しさは結局それを書いた人間が上等かどうかが、極秘の鍵(茨木のり子)故、詩を詠むには、先ず人間を磨く事か。

 二人が睦まじくいるためには
 愚かでいるほうがいい
 立派すぎないほうがいい
 立派すぎることは長持ちしないことだと気付いているほうがいい
 完璧をめざさないほうがいい
 完璧なんて不自然なことだと(祝婚歌 吉野弘)
 
Ⅰ 宮沢賢治から茨城のり子 33編
Ⅱ 高村光太郎から吉野弘 42編
Ⅲ 茨城のり子から谷川俊太郎 41編


2021.3月 

「相対性理論の一世紀」
成瀬立成
講談社学術文庫

二世紀以上にわたり絶対的権威として君臨したニュートン力学の常識を根底から覆したアインシュタインの相対性理論解説本。
自然科学の基本的物理量である時間と空間の本質を明らかにした。月が落下せずに地球の周囲を回る天界の出来事が、万有引力の法則で説明できる。アインシュタイン理論の拠り所は、電気と磁気を巡る学問、電磁力学。 電磁波すなわち光。二つの原理、相対性原理(互いに他に対して一様な並進運動をしている)と光速度不変の原理が相対性理論の前提。相対性理論(絶対的な長さ、絶対空間など存在しない)は、時間と空間についての理論 空間は、縦・横・高さの3方向に広がりをもつ3次元という次元を持つ。光は電磁波 時間には絶対的な基準など存在しない。我々が自分のいる座標系の空間尺度と時間尺度によってしか対象を観測できない。 

学術は、少年の心を養い青年の心を満たす。その学術がポケットに入る形で生涯教育をうたう現代の理想、講談社学術文庫。こう云う文庫は是非に広まって欲しい。

後半からは、方程式を使った難解な説明でギブアップ。自分の無学が情けない。 


「相対性理論」
佐藤勝彦
NHK出版

動いている物は、長さが縮む、重くなる、時間が遅れると、従来の常識を根底から覆した相対性理論の紹介。光の速度は一定。時間は、唯一絶対のものでない、相対的なもので、見る人の立場(相対)によって、時間の尺度は伸びたり縮んだりする。また、同時に起こったことも、別の人には同時でなかったりもする。三次元の空間に、時間軸である一次元をプラスした四つの座標軸からなる四次元が、相対性理論の時空。物質が存在するという事は、そこに重力が発生する事。重力が働くと時間が遅れる。 


「あなたにもわかる相対性理論」
茂木健一郎
PHPサイエンス・ワールド新書

アインシュタインは、功名心と功利心に囚われず、権威や世間とは無縁に生き続け、批判的に考え続けた、日常感覚を疑った。目にはみえないが、磁石の針をいつも同じ方向に向ける何か、宇宙の秩序が空間の中にある筈がアインシュタインの信念。特殊相対性理論は、等速直線運動に適用できるが、加速度運動で適用できるようにしたのが、一般相対性理論。長さが縮むとは物体が縮み、物体が存在する空間が縮む、歪むという事。この歪みが重力の正体。
ニュートンの絶対空間の否定。「E=mc2」、エネルギ‐は、質量に高速の二乗を掛けたものと云う式。世界一簡単で、世界一有名な方程式。

難解な講談社学術文庫でギブアップした相対性理論を、平易そうな解説本を選んで読んでみたものの分かったようで、分かってないのだろう。


 2021.4月

「日本史」「日本」の誕生から戦後まで
西東社

サブタイトル、「いま、知っておくべき日本の歴史」とあるが、古代から現代の日本まで、取り上げるべき事件の項目を網羅的に列記した日本史。
そんな事があったなぁと思い起こされるが、その背景なり必然性なりは全く分からない。矢張り小説風に事件の詳細が語られる物語が望まれる。この本で薦められている時代時代の次の本をこれから読む事にしよう。

 (弥生) 内田康夫「箸墓幻想」
 (飛鳥) 黒岩重吾「落日の王子 蘇我入鹿」
      井上靖  「額田女王」
 (奈良) 黒岩重吾「天風の彩王 藤原不比等」
      杉本苑子「穢上荘厳」
 (平安) 永井路子「王朝序曲」、「望みしは何ぞ」
      吉川英治「新平家物語」
 (鎌倉) 司馬遼太郎「義経」
      永井路子「炎環」、「北条政子」、「つわものの賦」
 (室町) 吉川英治「私本太平記」
      北方謙三「武王の門」
      井沢元彦「天皇になろうとした将軍」
      平岩弓枝「獅子の座 足利義満伝」
      戸部新十郎「北辰の旗」
      永井路子「銀の館」
 (戦国時代) 司馬遼太郎「箱根の坂」
      津本陽「武田信玄」
      司馬遼太郎「国盗り物語」(一・二巻)
      城山三郎「黄金の日日」
      津本陽「下天は夢か」
 (安土桃山) 司馬遼太郎「国盗り物語」(三・四巻)
      安部龍太郎「信長燃ゆ」
      大佛次郎「乞食大将」
      山岡荘八「柳生宗矩」
 (江戸) 山岡荘八「徳川家康」
      池波正太郎「真田太平記」
      山本周五郎「椎の木は残った」
      森鴎外「阿部一族」
      船橋聖一「新・忠臣蔵」
      藤沢周平「市塵」
      司馬遼太郎「竜馬がゆく」
      杉浦日向子「風流江戸雀」
      吉村昭「黒船」
      船橋聖一「花の生涯」
 (幕末) 島崎藤村「夜明け前」
      司馬遼太郎「世に棲む日日」
      司馬遼太郎「最後の将軍」
 (明治) イザベラ・バード「日本奥地紀行」
      松本清張「西郷札」
 (大正) 司馬遼太郎「殉死」
 (昭和) 向田邦子「父の詫び状」
      大岡昇平「俘虜記」
      吉田満「戦艦大和の最後」
      司馬遼太郎「この国のかたち」
      城山三郎「静かなタフネス10の人生」、「落日燃ゆ」
      開高健「日本三文オペラ」
      高野悦子「二十歳の原点」
      宮崎学「突破者」


      
2021.5月 

「銀の館」
永井路子
中央公論社

薄い桜色の皮膚の下で命が手毬のようにはずみつづけている16才の少女、日野富子は、室町幕府8代将軍、義政の正室に。無邪気で何でもおもしろがらずにはいられない富子の一方、将軍という象徴的存在として生きることを強いられ、自分の意志で判断し行動することを許されずに生き、何事にも自分の意思を示さず、無色無感動にと強いられ育った義政。富子の頑張りなしでは、室町幕府はもたず、富子は、幕府の財政をも切り盛りせざるを得なくなる。

一度は将軍後継者とした義政の弟、義視に替えて、息子、善尚の擁立が応仁の乱へと発展。

富子の後土御門天皇との密通の噂は、一度でも真剣に人を愛し得たという事と筆者は語る。女性ならではの視点。

鴨川河原育ちの「ゆうか」の奔放な生き方、流れに身を任せる「蘭之介」の生き方との対比で、大変興味深く話が進み、長編にも一気に読める。

懸命に生きて、最後には、一生をかけて来た息子に、その一生をにべもなく否定された富子の最後は幸せだったのか。富子辞世の句、「ながらへば人の心を見るべきを 露の命ぞかなしかるける」。ぼろぼろに老いて朽ちた自分だけが残されたと筆者は云う。思い通りにいかない人生は、悲哀そのものか。思い通りに運ばないのが人生。


2021.6月

 
「炎環」
永井路子
角川書店

1964年直木賞受賞作。源頼朝の旗揚げから承久の乱までの時代を背景に、「悪禅師」では、頼朝の異母弟、阿野全成、「黒雪賦」では、裏切りで頼朝の命を救った梶原影時、「いもうと」では、全成の妻、政子の妹、北条保子、「覇樹」では、北条義時をそれぞれ主人公とし、それぞれの野望と挫折が描かれた四連作小説。

単純な武力行動以上に策略をめぐらして敵を滅ぼす権謀術数の渦巻く世界が描かれる。


 
2021.7月 

「自転しながら公転する」
山本文緒
新潮社

中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞受賞。恋愛小説なのだが、大変示唆に富んだ小説で多くの読者に好かれる本。プロロークで一気に読者を引き込む、大変巧みな作家。この一作で好きになった作家。

東京で働いていたが、親の看病のために実家に戻り、近所のモールで働き始める32歳の女性が、中卒の回転寿司屋の元ヤンキィー風の男と付き合い始め、結婚するのか悩みぬく物語。

秒速465メートルで自転し、その勢いのまま秒速30キロで公転している地球。結婚なのかどうかはわからないけど、やっぱり誰かと連帯して生きていきたい。将来は結婚したい、子供も欲しい。それにはまず恋愛というハードルを越さなくてはならない。結婚する事のメリットばかり考えていたが、相手にしてみれば自分と結婚することのメリットは。何かに拘れば拘るほど、人は心が狭くなっていく。幸せに拘れば拘るほど、人は寛容さを失っていく。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる、少しくらい不幸でいい。 

9年前に、この作家の「プラナリア」と云う本を読んでいる事を知った。も一度読んでみよう。



2021.8月

 
「燃える地平線」
橘外男
幻戯書房

表題作を含む4短編集。この作者は、中学を素行の悪さで退学処分を受けた異端児で、「実話書き」として世に出た特異な作家。

「地獄への同伴者」
結核のため22歳の短い生涯を閉じた若妻をモデルにした生霊を扱った悋気、怨念の怪談話。作者の公金横領の罪で収監された時の獄中体験に基づく、殺された人間の魂 怨霊、生霊を扱った怪談と解説されている。
推敲を重ねたと思われる綴りで最初は魅了されたのだが、読み進むにつれ生臭い陰々滅々な話に嫌気した。伏字のある箇所は、当時の検閲による削除部分との事。

「燃える地平線」日本を訪れたアラビア人親子、優美極まる美少年が語ったアラビア秘話。



2021.9月
 
「沈黙の宗教 儒教」
加地伸行
筑摩書房

本書の結語として、「儒教とは、家族や社会と共に在る共生の幸福論。個の宗教でなく、家の宗教、一族の生命の連続の賛歌」とあるが、小生の教養のなさで本書を理解するに至らず。   

日本人は位牌と墓に拘るのは、習俗から。宗教の中で、儒教のみが、自己宣伝をしない沈黙の宗教。死後も自分の魂は、何処かにあると多くの人が思っている。儒教は、死者の魂は、あの世でなく、この世にいる。インド諸宗教は輪廻転生でお墓を建てる必要がない。宗教とは、死並びに死後の説明。儒教は、心身二元論。輪廻転生のインド仏教、招魂再生の儒教。


 
2021.10月
 
「時間の王」
宝樹(訳 稲村文吾)
早川書房

中国の新鋭、宝樹による時間を題材にしたSF集。  
「穴居するものたち」 紀元前1.4億年前の穴ぐらでの生活で始まり、紀元前4万年前の狩猟活動、紀元前1.5万年前の住居生活と、最後には、紀元2109年中米による核爆弾最終戦争による人類の破滅までと、生命の定めと時間の残酷さの中で些細な満ち足りた幸せを求め地球という穴ぐらで生きてきた人類の姿が語られる。
「時間の王」 突然の事故で、過去の瞬間に意識を移す事の出来、自在に時を飛ぶ「時間の王」となった主人公の過去の苦難が描かれる
新時代の超絶エンタテイメント短編集との宣伝に惹かれ読んでみたが、全く面白みがなくギブアップ。訳の問題かもしれない。


「プラナリア」
山本文緒
文春文庫

9年半振りの再読。9年半前は、何度読んでもいい評しているが、今回はそんな感じはなし。もう一度読みたい本は、「あいあるあした」ぐらいで、他は、どうも暗く気分が晴れない。但し、気配りの行き届いた綴り、本を読む楽しみを味あわせてくれるのは間違いなく、人生の達人が書いた本。
この著者は、人間関係の繊細なずれから生じる喪失、慈しみをテーマに作家活動を続けた方との事で、40歳の時、うつ病発症で大変な人生を送っている。「プラナリア」で、「みんな不安で寂しくて飢えてんの」とあるが、大変神経の細やかな人だったのだろう。この10月13日、膵臓癌で58歳で亡くなった。


2021.11月
 
[決戦 関ケ原」
伊東潤 他 六人
講談社

七人の作家による秀吉死後の豊臣政権権力闘争「関ケ原」競作短編集。
「人を致して」伊東潤 三河の弱小国人の家に生まれ、常に頭上に漬物石を乗せられ、他人に致されてばかりの生涯だった家康。
「笹を嚙ませよ」吉川永青 徳川の先鋒を勝ち取った、福島正則隊の可児才蔵。
「有楽斎の城」天野純希 秀吉に仕える信長の弟、茶の湯を楽しむ織田有楽斎。
「無為秀家」上田秀人 家康方で戦った加藤家、福島家ら多くの大名が滅亡した中、秀家の子孫は数百年を生き抜き今に続く宇喜多秀家秀家。
「丸に十文字」矢野隆 家康を討つまで戦は終わらないと死地を脱し命を永らえる島津義弘。
「真紅の米」冲方丁 家康の東軍に寝返り、豊臣家衰退決戦を左右させた豊臣一族の、しかも19歳の若者、小早川秀秋。 
「孤狼なり」葉室麟  自ら負けてやったのだと云う九万の西軍を率いた石田三成。


 
「青い枯葉」
黒岩重吾
光文社文庫

ミステリー七短編。あの黒岩重吾がこんな退屈なものを書くのかと我慢し続けてやっと二作を読む。どうもミステリーというのが肌に合わないのか
「青い火花」 大阪道頓堀の巨大キャバレーに蠢く愛と憎しみが語られる。週刊朝日、短編探偵小説懸賞受賞作。
「青い枯葉」 重吾本人曰く、「愛」の尊さをテーマに社会の歪の中で蠢く人々の闇を炙りだされる話し。

(何故、退屈と感じたのか。記述、描写が単なる事件の羅列だけに終わり、展開が視覚的に、映像的に入ってこないからか)


 
「あの春がゆき この夏がきて」
乙川優三郎
徳間書店

戦後、浮浪児から、画家だった養父に拾われ 装幀家になる。その後、川崎でバーを経営。様々な魅力的な女性との出会い、触れ合いを通じ人生の哀しみ、儚さが語られる。
逗子に住む凛と生きる豪富夫人との話を描いた「赤と青の小瓶」の編では、暫く本を閉じ余韻に浸る。しみじみとした味わいがある。読んで心が潤う。戦後の戦災孤児の凄まじい生き方が語られる「水」も、何度読んでも良い。 


2021.12月
 
「無縁の花」
水上勉
田畑書房

満十歳をひかえ、お寺に奉公に出なければ生きてゆけなかった若狭生まれの水上勉の社会派推理小説傑作9短編。角田光代は、「人間の無念さ、かなしさ、せつなさ、憤怒の見事な色彩を持つ光景」と解説しているが、兎にも角にも読んでいてせつなく悲しい。また映像的な精緻な筆に引き込まれる。今まで水上作品を読んだ事ないのだろうか。好きな作家を見つけた。
「雪の下」 大雪の朝、足の不自由な女教師が山上の分教場に向うが、着いていない事が三日後に判明する。
「西陣の蝶」 神社内で落ちていた包丁を拾った屑物回収業の娘が、成長して芸妓となり父親の冤罪を晴らす。
「無縁の花」 お寺の無念仏の過去帳に書かれた縊死した女性の身元調べの話。
「崖」 失職した夫に代わってダンスホールに勤める妻と夫の辿る惨めな結末の話。
「宇治黄檗山」 片目をくりぬかれた男と、くりぬいた軍曹の辿る結末の話。
「うつぼの筐舟」 佐渡宿根木の漁師が女の絞殺死体の入った木箱を見つける。
「案山子」 渓下の日陰田のつらい労働にも仲良く精出す評判の夫婦の妻の姿が突然見えなくなった。  
「奥能登の塗士」 那智滝に無理心中した輪島の漆工と京都お寺の住職の妻の接点は。
「真徳院の火」 京都真徳院が、近所の下駄屋の下女によって放火されてしまう。


「ロゴスの市」
乙川雄三郎
徳間書店

翻訳家、同時通訳者と違った世界で生きる事となった、大学サークル仲間二人の切ない狂おしい愛の物語。取り返しようのない歳月を浪費するのが人生と言い切る作者。

紡がれる言葉の巧みさ、美しさで、度々読むのが中断される。好き嫌いは、あるのだろうが。

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読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、もう一度読みたい本

2021.1月
2021