読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、もう一度読みたい本

「暗夜行路」 前編・後編
志賀直哉
岩波文庫

2016.4.1
時任謙作は、祖父の妾お栄と結婚したいと望むなか、実は自分が祖父と母の不義の子であったことを知る。その後、京都で、散歩中に見かけた鳥毛立屏風の美人と結婚し、新しい明るい生活への転生のなか、妻が従兄と過ちを犯したことで再び苦悩を背負う。無制限な人間の欲望が人の不幸を導き、母、妻の不貞、過失が、これまでの生涯にたたられとおしで来たと悩むが、伯耆の大山の美しい山の自然に新たな自分を見出していく。

「武者小路実篤兄にささぐ」と完成に16年掛かった作者唯一の長編作品。

確かに、これだけ暗い話の展開なのに静謐さを感じさせる結末の美しさは素晴らしいのだろうが、読後の満足感はない。 

人の名を覚えるのが苦手な自分が、何故かこの「時任謙作」の名は、不思議と覚えている。学生時代にそれ程の感動を覚えたとも思えないのだが。
「つまをめとらば」
青山文平
文藝春秋

2016.4.16
2015直木賞受賞作品。自分の感じ方に、絶対の信頼を置く事ができる女達に、翻弄される気の弱い男どもの、「ひともうらやむ」、「つゆかせぎ」、「乳付」、「ひと夏」、「逢対」、「つまをめとらば」の六短編。

「ひともうらやむ」の、女菩薩の優しく美しい妻から、離縁してくれと言われ戸惑う藩随一の男の物語は、小説とはこうして作るものだと納得できる傑作。 
「ヒーロー」
白岩玄
河出書房新社

2016.4.22
学校のいじめを防ごうと、ヒーローバカの男と、演劇部で演出を担当している女学生の悪戦苦闘物語。

スマホのラインで忙しい若者向けの軽い読み物と思って読み進めたがとんだ大違い。

「学校で一番大事な事は、生徒一人一人の居場所があると云う事」と語られるが、何処でもこれが一番大事な事。そして、「正しさを掲げる時、見えなくなるものがある。正しさは人から優しさや思いやりを奪う」。そして「自分の正しさから抜け出せない人は、目の前にいる人が、自分と同じ痛みを感じる人間だと思えない」。中高生の必読書と云ってもよい。いや、私自身感じ入った。 

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2016.4月