読書ノート

(本タイトルのフォント青色の書籍が、もう一度読みたい本

2015.10月

「虚ろまんてぃっく」
吉村萬壱
文藝春秋

2015.10.13
「これを書いた人間は、精神の根っこが腐り、少し頭がおかしい。書いた本人が思うぐらいなので、読者はもっとそう思うに違いない」と筆者は云う。

「20世紀の100年間に、人間が殺した人間の数は1億人を下らない。人間はおそらく生物として狂い、滅茶苦茶な生態を持った種だ。私はそれを書いている」とも云う。そんな芥川受賞作家の書いた不気味な、標題作を含む10短編。

「虚ろまんてぃっく」
 夜間、門扉によって閉鎖される臨海道路にぶら下がった伊呂波埠頭での話。

 「人間は、行動した後で言葉を捏造するエクスキューズ星人である」。「人間の発せられる声で唯一美しいのは、動物的な唸り
 や叫びだけである」と。 

「家族ぜりー」
 作者は、滅茶苦茶な生態を持った人間を書くと断わっているのだが、ともかくもおぞましさを越えた、父と息子の性的関係には、
 汚ならしくて、不快そのもの。これほど人間は、おぞましいものなのだろうか。この作者の、来し方は如何なるものであったのだ
 ろうか。

  「人間は考えた後に行動するのでなく、まず何かをしてから自分の行動に良い訳を考える」と作者は。

「大穴」

 「女は、男の記憶を上書き保存してしまうが、男は一人ずつ名前を付けて保存しているのである。」と。

その他の作品も、全て性に係る作品。譬えも巧いし、綴りもいいが、おぞましいものとは思えない性を、貴ぶ視点でも表現して欲しいものだ。
「コンタクト」上・下
カール・セーガン (池 央耿 高見 浩 (翻訳))
新潮社

2015.10.20
現代科学の最先端に立つ天体物理博士の作品。地球外知的生物との接触(コンタクト)に係る、政治、経済、科学、宗教等、各種分野での対応の詳細が語られる。

幼いころから星に憧れ、夜空が常に友だあったエリーは、女流天文学者となり、地球以外の天体に住む生物との交流に情熱を注ぐ。そして遂に、ヴェガから1936年のヒットラーのベルリンオリンピックの演説画像が送られてくる。そのメッセージは、悪魔からか神からなのか、はたまた神の再臨なのかと騒擾を引き起こす。

「神は、聖書の中では歴然としているのに、神の姿を見る事は出来ないし、現実の世界では曖昧模糊としているのは何故」、「ある人にとって、神は、人間が挑むべき謎を掃き捨てる場所。神が不在の世界は、罰もなければ報いもない」と意味深な論も展開される。

遂にエリーは、ヴェガから送られてきた設計図で作られたマシーンに乗って、三万光年の距離を旅して、辿り着いた浜辺で、父親の姿をした異星人に会う。 

専門的な話の展開もあって難解ではあるが、科学と宗教の対立の話とか、宇宙の話とか、大変興味深く読む事ができる。

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