「嵐が丘」上・下
E・ブロンテ(小野寺健訳)
光文社文庫

2015.8.15

ヨークシャーの荒野にたつ嵐が丘の屋敷の主人に拾われてきた男、ヒースクリフが、養父の死後虐待され、身分を貶められた怨念から二世代に亘って、虐げた者への復讐に終始する物語。

冗漫な展開で、読み終えるに相当な忍耐が要った。サマセット・モームの言、「嵐が丘は、世界の十大小説の一つ」を知らなかったら最後まで読む事はなかった。また、モームの言葉も腹に収まる事にはならなかった。出版当初は、片意地で獣的で陰気と悪評を受けたのも納得。

解説では、「人間の実存を探求し、根源的な自我をみつめたもの」とある。確かにこの物語は、愛情、嫉妬、怨恨から虐待へと、そして執念、策謀、強奪、復讐へと、そして錯乱と人間の抑えようのないエゴに終始している。若き女性が書いたものとは、恐れ入ったもの。

30歳の若さで死亡したE・ブロンテの29歳の作品。彼女は、窓から墓石の列が見える牧師館で生まれ、三歳で母をなくし、牧師の子弟塾、寄宿学校で苦い経験をし、子供の頃の姉二人の死亡、兄の酒乱での死亡、弟の年上人妻への錯乱と、人間の根源的な自我(エゴ)を意識せざるを得ない人生を送った。だからこそ嵐が丘を書けたのだと思う。高校時代まで記憶がない小生には理解不能の作品。
「死の棘」
島尾敏夫
ほるぽ出版

2015.8.18
十年に亘る夫の浮気。十年間も騙され続けた妻は、「いや!さわないで。あなたみたいな汚い人。けだもの。いぬ畜生」と神経にも異常をきたす。その克明なる夫婦の遣り取りの記録の私小説。妻の語る一語一語は胸に刺さるが、どうも私小説はいけ好かない。
「蜜のあわれ」
室生犀星
国書刊行会

2015.8.22
三歳っ子の金魚の「あたい」と、小説の中で沢山の女性を愛人にしてきた70歳の小説家「おじさん」が、恋人同士となるお伽噺。
会話と対話だけで物語が終始する不思議さも加わる。

作者の生い立ちの哀しさ、母親の愛情を知らずに育った作者にとって、「あたい」は究極の女性なのか。お伽噺の裏に伺い知れない哀しみが隠されているのだろう。

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(本タイトルのフォント青色の書籍が、もう一度読みたい本

2015.8月