「幕末の暗殺者」 船山馨 角川文庫 2015.1.15 攘夷倒幕運動の中心地、いたるところで毎日のように人の血が流された京都で、暗殺者達が、その内の幾人かは、一種の屠殺人夫としても扱われ、その使命を終え、歴史の中で痕も残さず、人知れず消えていった哀しさ、人間の性が伝わってくる12短編集。報われもせず獄死していった岡田以蔵解を扱った「暗い日の志士」、片腕の居合術の遣い手の無残な最期の「隻腕無残」には、心うたれる。 幕藩体制の崩壊と云う幕末は、薩長土肥の下層武士団によるいわば下剋上の時代で、坂本竜馬暗殺も、京都見廻り組によるとの通説以外にも、新撰組、土佐藩武力倒幕派の手、薩摩藩の陰謀、紀州藩仕業説もあり、何でもありのとてつもない時代だったのだろう。 乱世の人(清河八郎暗殺事件)清河八郎暗殺の陰で、命を落とした男女。 密偵往来(姉小路卿暗殺事件)姉小路公知暗殺の長州の陰謀の証拠を掴んだ津藩の密偵の末路。 暗い日の志士(岡田以蔵暗殺事件)、土佐藩尊攘派の偉材、武内半平太の手足となった人斬り以蔵、嗤いものにされたまま、士分の資格も剥奪され、入墨者の無頼漢として獄門処分される。以蔵毒殺の為の毒を飲んで死ぬ先斗町妓楼の薄幸の女も哀れ。 女と天誅(冷泉為恭暗殺事件)尊攘派のなかで名を売り、英雄となるには、天誅を名とする暗殺の実行。 詰腹競争(池田屋騒動)池田屋残党詮議 かぐり雁(佐久間象山暗殺事件)公武の和一と開港実現のため奔走する象山 隻腕無残(孝明天皇毒殺事件)武力倒幕派の勢いを決定的にした孝明天皇36歳での崩御の真因は、現在でも謎。池田屋事件で自刀した肥後藩士宮部鼎蔵復讐の為、岩倉具視暗殺を狙う片腕の居合術の遣い手の無残な最期 雨夜の暗殺(新撰組の落日)七条油小路での伊東甲子太郎他四人惨殺事件。山南敬助切腹事件。 近江屋事変(坂本竜馬暗殺事件)紀州藩の汽船と海援隊伊呂波丸衝突に原因する紀州藩仕業説。土佐藩武力倒幕派の手、薩摩藩の陰謀。 渦中の女(芳賀宜通謀殺余聞)官軍に抵抗した旧幕臣の探索 薄野心中(新撰組最後の人)薩長の成上り政府に一矢酬いる ある叛逆者(神風連の乱)腹違いの兄妹と神風連の乱 |
「透明な迷宮」 平野啓一郎 新潮社 2015.1.28 人の持つ多面性、他人との愛憎につきハッと思い起こさせる、フッと考えを想い巡らされる大変深遠なる6短編集。静謐な感じをも受ける。標題作「透明な迷宮」の、「愛を受胎するのは、二人の間の出来事からなのだろうか」、しかし「ただその記憶は、何時までも同じでなく、思い出す度に上書きされる」と変わってくる事を示唆され、「人を愛するとは、相手の人格を全体として愛するのでないか」と綴られ、ナニ、ナニと考え巡らされる。 綴られる語彙、比喩の的確さ、巧みさに感嘆させられるので、きっと読む度に、新たな事に気付かされ、何度読んでも飽きがくる事がないだろう。心に残る短編集。 「消えた蜜蜂」他人の手紙を瓜二つの筆跡で筆写する郵便配達人の話 「ハワイに捜しに来た男」「俺に見覚えがないか」と人捜しにハワイに来た男の話 「透明な迷宮」出張先のブタペストで知り合った女と共に監禁され、セックスを強要される。東京に戻って彼女に再会するが、 双子の姉妹の妹だった 「Family affair」父の遺品の中から見つかった拳銃の始末に苦慮する娘と姪の話 「火色の琥珀」女性でなく炎にのみ性的魅力を感じる男の話。「愛は、偽りと打算に満ち、一方性欲は純粋」と綴られる。 「Re:依田氏からの依頼」愛する女を自動車事故で失ったことで奇妙な病に罹る男の話 |
(本タイトルのフォント青色の書籍が、もう一度読みたい本
2015.1月