2025.1 |
「盲目の目撃者」 甲賀三郎 春陽文庫 江戸川乱歩と人気を二分した探偵小説の重鎮、甲賀三郎の3中編。探偵小説は、何か作り物といった感が強く、読む機会少なかったが矢張り肌に合わない。作者の息吹と云うか熱情が感じられない。 「盲目の目撃者」 嵐で沈没した客船ブラジル丸から奇跡的に救出された船医が、カフェで出会った謎の青年の依頼で、もう一人の生存者である富豪の相続人を訪ね、殺人事件に巻き込まれる。二転三転する展開で引き込まれるのだが、結末があっさりとしていて興覚め。 「山荘の殺人事件」 夫と共に、信州富士見高原に山荘を持つ夫の中学時代の友人を訪ね訪ねる。友人と共に地下の射的場に降りた夫、友人は殺害され、夫は姿を消していた。練りに練ったと云った筋運びで面白く読める。 「隠れた手」 密かに郷里を出tて東京に出た男、職探しで訪れたホテルの迷い込んだ部屋で殺された男に遭遇する。こじつけられた様な結末。 |
「その殺人本格ミステリにさせません」 片岡翔 光文社 漫画チックな装丁、ややこしいい氏名の登場人物で閉口したが、連絡不通の孤島の奇怪な館で次々と起こる殺人、驚きのトリック、そして衝撃のラスト。練りに練った筋立てに感心。映画監督の鳳灾子(おおとりさいこ、灾の訓読みはワザワいだが、ネーミングに何か意味があるのか)は、「最高傑作を作ることができれば本望。私は極刑となり、映画は伝説となる」と関係者を孤島の館に集める。何気なくこの一文を読み飛ばすが、読み終わってみれば、とんでもない伏線がしょっぱなにあったことが分かる。脱帽。 |
「アルジャーノンに花束を」 ダニエル・キイス(小尾扶佐 訳) 早川書房 全世界が涙した不朽の名作との事だが、小生には、たまらない腹立たしいさを感じた作品。 知的障害のある者が、父親の無責任、無関心、母親の偏狭な思い込み、医者の名誉欲で、知能向上の手術の実験台にされ、翻弄される人生を送ることに。 子供の一生は、すべからく親次第。親の身勝手で惨めな一生となるケースがこの話。幸せとは何なのかの大きな問題提起されている事は確か。この意味で、読む値打ちはあるのか。 |
「トウキョウ下町 SFアンソロジー」 トウキョウ下町SF作家の会 編 社会評論社 「下町とはSFの証明なり」のテーマで公募応募された7作品。訳の分からない作品が多かったが、良かったのは、大木芙紗子と云う作家を知ったことぐらい。 「東京ハクビシン」 大竹竜平:新橋烏森ガード下をネグラとするハクビシンの話し 「お父さんが再起動する」 桜庭一樹(2008年直木賞受賞作家):30年後の未来から来た小説編集者の話し 「スミダガワイルカ」 関元聡:地球上で唯一、隅田川においてのみ絶滅から免れ生息できたスミダガワイルカの話し。僕にとって自由と不安は同義だった。 「総合的な学習の時間」東京ニトロ::「戦後の日本社会が作り上げたある種の豊かさと、それがはらんでいる矛盾やそこで取りこぼされてきたものを描き出した」とあるが視読の小生には難しい作品(黙読の要あり)。 「朝顔にとまる鷹」大木芙紗子:色より芸が売り物の辰巳芸者でも、随一のきっぷの良さを誇る大女の芸者、寅吉とクモたちの物語。恒川幸太郎「夜市」のような余韻の残る物語。他の小説を読みたいものだ。 「工場長屋A号棟」笛宮エリ子:工場と呼べるのかもあやしい長屋の連中が、工程を担う中で、A2号室と呼ばれる長屋の一室で切削加工を担う男の話。一つの物語になっていないと思えるのだが。 「糸を手繰ると」斧田小夜:転生ラマと認定とか、ブロックチェーンで管理するとか、訳の分からない字句の連続で理解不能。 |
2025.2 |
「満願」 米澤穂信 新潮文庫 「このミステリーがすごい」(宝島社)、「週刊文春ミステリーベスト10」(文芸春秋)、「ミステリーが読みたい」(早川書房)の三冠を始めて制した短編集。出版社のコメントによると、「死にたい人たちのあいだで、随分評判らしい」ともあり、巻末の解説でも、「人間が孤独な存在であるという事を。それぞれの事件の結末は、それぞれの必然で、そうするしかなかった」と思い知らされる短編集とある。人の醜い、独りよがりの思い込みが事件を起こさせる表題作を含む6短編集。 何と、何と6年半前、2018.8に読んでいた。6年前では、読み続ける気にならず4篇でギブアップのようだが、今回は完読。確かに出版社コメントの「磨かれた文体と冴えわたる技巧」には感心するが、この作品を読んで、まづ感じたのは、「ねっとりとした、湿った感じ」で、小生は、あまり好きになれない。 「夜警」 暴漢から切り付けられ死亡した新任の交番勤務の警察官に隠された驚きの真実。 「死人宿」 毎年死人が出る山奥の温泉宿で、客が落とした遺書を巡っての事件。 「柘榴」 美しき中学生姉妹による戦慄のアッと驚く結末。 「万灯」 バングラディッシュ勤務の商社マンによる完全犯罪と思われた殺人事件が予期せぬ事で暴かれる。 「関守」 伊豆半島南部の桂谷峠道からの、4年で4件起きた転落死亡事故に隠された真実。 「満願」 もういいんですと、人を殺めた女は控訴を取り下げ、8年間の懲役刑に服すが、その裏に隠された真の動機。 |
「昭和史のおんな」上 澤地久枝 中公文庫 昭和の新聞を賑わせた女たちの10の物語。アサヒ芸能でもあるまいし、スキャンダラスなゴシップ゚記事を読んでいる感じで、「男と女の絡みは正に藪の中」で無分別な女の生き方もさることながら読むのも難儀。半分を残しギブアップ。 ・妻たちと東郷青児:女房が居ながら別の女と結婚し、その直後、一回り年下の西崎盈子(ミツコ)と情死を図った東郷青児。その取材に来た宇野千代と同棲を始め、その4年後、再会した西崎盈子と同棲と云う放埓を超えた多彩な女性遍歴。 ・井上中尉夫人「死の選別」: 満州に出兵する事となった夫に「仮の世は短いものですが永久に続くと聞く未来の国で、皆様をお守りいたします」と死の選別を送った21歳の新妻の自決事件。「その薫烈たる遺芳は永く世風婦道の亀鑑たり」と巧みに粉飾され、壮烈な軍国の妻の美談、出征美談へと仕立て上げられていった。死んだ女子は、本人の意思にはかかわりなく、ある役割を課せられて一人歩きを始める。「殉死と云う、極めてゴロテスクで蛮勇を要求される行為をあえて選んだ女性が、ほんとうに自ら選択したと言い切れるか」と筆者は。 ・保険金殺人の母と娘:母親が、放蕩息子とは言え、我が子殺害。母親に頸部を出刃包丁で突かれた時、「母さん、僕が悪いんだよ」と言ったという息子。 ・志賀暁子(アキコ)の「罪と罰」:2.26事件以来の戒厳令下にあった昭和11年、そして阿部定事件の40日後、新興キネマ人気女優が堕胎罪と云う忌まわしい罪名で裁かれる道徳・不道徳を超えて無道徳と云われたスキャンダラスな事件。・杉山千恵子の心の国境:日中戦争の始まった昭和12年の翌年始め、非合法下の日本共産党党員で、治安維持法違反事件で執行猶予中の杉本良吉は、女優岡田嘉子と共に樺太国境を越えてソ連に亡命する。日本の残された妻、杉山千恵子は、。「心の中に、良吉を生かすのは私の自由だ」と「消息が分かったら胃腸の弱い良吉の為、げんのしょうこや大好きだったとろろこんぶなどを送ってやろう」と。 ・チフス饅頭を贈った女医 ・性の求道者・小倉ミチヨ ・桝本セツの反逆的恋愛 |
「水都眩光」幻想短篇アンソロジー 文芸春秋 幻想短篇アンソロジー10短篇。大木芙美子の作品読みたくて検索して、この短篇集を見つけ、大木芙美子の「うなぎ」だけを読む。 ・大木芙美子「うなぎ」:臍から出てきたうなぎで、幼かった頃を思い出す話。 ただ、それだけの話なのだが、大木芙美子流の不思議な余韻が残る。 |
2025.3 |
「黒牢城」 米澤穂信 角川書店 2021直木賞受賞作品。加えて史上初となる4大ミステリーランキング制覇達成作品。織田信長から摂津一職支配を許された荒木摂津守村重が、信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った有岡城の戦いの史実をバックに、作者が作り上げた連作ミステリー。 序章、「因」で、謀叛説得で信長から遣わされた小寺官兵衛(後の黒田官兵衛)は、囚わられ地下の土牢に監禁される。終章、「果」で、「悪因が悪果を生み、悪果が悪因を生じさせるこの世の道理に人は抗うすべなどない。神の罰より、主君の罰おそるべし、主君の罰より臣下百姓の罰おそるべし、臣下万民の罰は尤もおそるべし」と。 直木賞選考委員の伊集院静評は、「戦国時代の群像を描くにはあまりに上質で、よく構築された構成の力量に並々ならぬものがあった。文章の安定感と簡明さは、才能だけでなく腕力のようなもの」と。 正に戦国絵巻を見るかの如く、有明城内にタイムスリップしてしまう筆力がある。終章の「果」 は圧巻。 なお、筆者は、この3月、直木賞選考委員となった 歴史ものは、読めても書けない慣れない字句が多く情けない。たとえば、一職 夫丸 柵木 謀り 曲事 曲輪 儂 木槌 鎖帷子 長鑓 胡坐 穢土 礫 方生 平仄 錫杖 持鑓 手水 磔殺 茵 脇息、何文字が書けて読めるか(いっしき、ぶまる、さくぼく、たばかり、きょくじ、くるわ、わし、きづち、くさりかたびら、ちょうそう、あぐら、えど、つぶて、ほうじょう、ひょうそく、しゃくじょう、もちやり、ちょうず、たくさつ、しとね、きょうそく)。 歴史物は面白いと同時に勉強になる。 |
「闇の用心棒」 鳥羽亮 コスミック時代文庫 数多くの剣客物シリーズの中の、全14巻「闇の用心棒」シリーズの第一巻。 今は刀の研ぎ師を生業としているが、十年ほど前は、人斬り平兵衛と恐れられた闇の殺し屋の殺しの六つの物語。全ての物語が、悪の登場、殺しの依頼、殺陣と同じ筋立てなのだが、読ませる魅力がある。 「地獄宿」 夜鷹殺しの旗本次男を 「陰鬼」、 裕福な商人の娘の敵討ちで旗本次男坊を 「群狼斬り」、「鬼首百両」、「白狐」 同業の口入や屋どうしの縄張り争い 「妖異 暗夜剣」 油問屋への強請り |
「宇宙はなぜこんなにうまくできているのか」 村山斉(ひとし) 集英社 まえがきに「宇宙人はいますか 私たちだって宇宙人ですよ」と、そうかと思われる説明。当然と、気にも、不思議とも思っていなかった事柄が語られる。何故と思いとどまる気持ちを持ち続けたい。 地球は時速約1400キロものスピード(東京緯度で)で回転している。夏は暑く、冬が寒いのは、地球の軸が太陽に対し傾いているから(23.4度)。太陽は地球を、地球は月を引っ張っている万有引力の法則。太陽の表面温度は、約6000度、ガスが重力によって集められて星を形づくっている。人間の体は、超新星爆発でバラまかれた様々な元素からできている。太陽系のある天の川銀河だけでも、星は、2000億個。太陽系は、ボインジャーが30年かけてやっと外に出られた広さがある。100億光年向こうにある銀河は、100億年前の姿。太陽系は秒速約220キロメートルのスピードで動いている。地球が太陽に飲み込まれる(太陽は膨張している)のが先か、天の川銀河がアンドロメダ銀河に飲み込まれるのが先か。宇宙の始まりは超高温・超高密度の火の玉だった。宇宙の膨張は加速している。この宇宙は、人間の為に用意された。宇宙の起源が私たちの起源。様々な基本法則や物理定数などが、すべて「人間が存在出来るように作られている」(人間原理:物理学、特に宇宙論において、宇宙の構造の理由を人間の存在に求める考え方)とも考えられる。 「知れば知る程、この宇宙に人が存在する奇跡に驚かされる」 |
「わが愛する犬吠の海」 西村京太郎 徳間文庫 大学4年生の男女4人、卒業記念の犬吠先旅行で4人の内の女一人が殺され、もう一人の女は数年後病死。残った男2人の内、一人が、旅行の16年後ホテルの一室で殺される。残ったのは、男一人。さてさて殺人事件は、どう解決されるのか。 著名な作家で、一度読んでみようと手にした。途中まではそこそこ面白かったが、早くから犯人が予想され、どうなるかと思ったがつまらない終わり方で、よくこんなので出版するのか疑問。 物語は、「殺された男は、床に血で自分の名前を何故か書き残していた」で始まるのだが、「なぜ自分の名前を書き残したのか」、その答えも書かれないまま物語は終わってしまう。いい加減な作家、最悪。 |
2025.4 |
「成瀬は信じた道をいく」 宮島美奈 新潮社 女主人公の高校3年生の秋から大学1回生の年末年始までの出来事を描く全5編から成る連作短編集。 本屋大賞ノミネート、面白い面白いとの評判で読んでみたが、漫画かと勘違いするようなマンガティックな装丁そのままの内容で面白くもおかしくもない。 「とくめきっ子タイム」 女子高生二人組の成瀬あかりの登場。 「成瀬義彦の憂鬱」 京都大学受験をめざす成瀬の、「京都、一人暮らし、物件」検索を見つけた父親の憂鬱。 「やめたいクレーマー」 クレイマー、呉間言実の万引き目撃の話。 「コンビーフはうまい」 びわ湖大津観光大使選任の話。 「探さないでください」 成瀬の「探さないで」との書置き騒動の話。 |
「地獄宿」 鳥羽亮 大活字文庫 14話の闇の用心棒シリーズ2作目「地獄宿」。深川は要橋端の“地獄宿”と恐れられる一膳めし屋。客は寄りつかず、胡散臭い男たちが群れる店におきゃんな若い娘が働き始めた。そこの主は知る人ぞ知る、闇の殺しの差配人。ところが、地獄宿の男が一人また一人と惨殺される、しかも異様な斬り口を残して。狙いは何か?存亡の危機に立たされた地獄宿は、五十七歳の老刺客・安田平兵衛に最後の望みを託した(出版社解説) 悪なり、脅かす者を成敗する筋立ては、同じなのに読ませる力がある。殺し合いの、「鈍い骨音がし、顔が縦に裂け、頭頂の裂け目から血と脳漿が飛び散った」と云った凄惨な展開も凄い。 |
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(本タイトルのフォント青色の書籍が、もう一度読みたい本