「銃・病原菌・鉄」上
ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰 訳)
草思社 

2013.4.4
1998年度ピュリッツァー賞受賞作品。最後の氷河期が終わった、1万3000年前からの人類の跡をたどり、「世界の様々な民族が、それぞれに異なる歴史の経路を辿ったのは何故か」の謎を解き明かす。有史以前の人類の行い、足跡を、推論でなく、分子生物学、進化生物学、生物地理学、考古学、文化人類学などの最新の研究成果をもとに解き明かしていく。翻訳の所為なのか饒舌さが気になるが、説得力のある論理的な展開は、若い人にはものの見方、考え方の大変な参考となるであろう。

現代世界の不均衡を生みだした直接の要因は、技術や政治構造の各大陸間格差である。ヨーロッパ人が新大陸を植民地化できたのは、銃器・鉄製の武器、騎馬などに基づく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、航海技術、ヨーロッパ国家の集権的政治機構、そして文字を持っていた事である。本書のタイトルの「銃・病原菌・鉄」は、ヨーロッパ人が、他の大陸を征服できた直接の要因を凝縮して表現したもの。  

その格差は、人種的な違いからでなく、狩猟からいち早く農耕の定住生活様式に転換したかどうかによると結論する。読み書きの能力や、武器の製造技術が、ユーラシア大陸で最初に出現した事の根本的要因は、狩猟生活だった者が、栽培できる植物、飼育できる家畜を手に入れ自分たちで食料生産を始めた事である。食料生産を他の地域に先んじて始めた人々は、他の地域の人たちより一歩先に銃器や鉄鋼製造の技術を発展させ、各種疫病に対する免疫を発達させる過程へと歩み出した。この一歩の差が「持てる者」と「持たざる者」を誕生させ、その後の歴史における両者間の絶えざる衝突、征服と疫病と殺戮につながっている。

本読書ノートでは結論だけを、愚だ愚だ書いているので著者の意見は何を言っているのだ?となるが、本の中では、なるほどと納得できる理論展開で、例えば「シマウマは何故家畜とならなかったか」を、アンナ・カレーニナの書き出し「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」理論で、著者主張は、明確に、具体的に示され、有史前の我々先祖の行動が明らかになる。見事に真実が突き止められた謎解き本である。物の見方、考え方の進め方を知る意味で、若い人必読本の一冊であろう。ゆっくり、じっくりと読みたい本。宇宙の謎も、このように解き明かしてほしいもの。
「お腹召しませ」(おはらめしませ)
浅田次郎
中央公論社

2013.4.10
2007年司馬遼太郎賞受賞作。作者が中学生の事、祖父と二人きりで暮らした時、向こう火鉢で茶を啜りながら祖父の語った幕末から明治維新期を舞台とした昔話を元に創られた「お腹召しませ」他の6篇の時代小説。家の柵(しがらみ)なり、武士の体面など糞食らえ、人間らしく生きる情、思いやりが語られ心が清々しくなる作品。特に「大手三之御門御与力様失踪事件之顛末」、「女敵討」がいいね。問答無用に100冊の一冊。 

「お腹召しませ」
入婿が、あろうことか藩の公金に手を付け、新吉原の女郎を身請けして逐電した。家禄召し上げのうえ所払のお裁きを避けんが為、25年も添った妻、そして娘までも「お腹召しませ」と云う。「正体のねえお家にふん縛られて、腹を斬るなんて了簡違い。入婿さんのほうが、人間らしい」と中間に諭される。すべてを捨てて生きようとする入婿が愛おしくなり「切腹はやめじゃ」と翻意する。 
「大手三之御門御与力様失踪事件之顛末」
大手三之門を護る徳川の由緒正しき鉄砲隊御百人組の与力一人が、夜詰の大手番所から忽然と姿を消した。百人番所は、大手三之門内で、その先は御譜代大名が厳重に警護する大手門だから、煙のように消えでもしなければ城外に出る事はできない。神隠しに遭った件の男が、五日後、まるで天から降り落ちてきたように屋敷の門前に記憶を全く失って倒れていた。
「安藝守様御難事」
在府大名が御用逃れの為、時の老中に賄賂を渡す逸話を、訳の分からない「斜籠(はすかご)の稽古」で安藝守を惑わす話。安藝守の情深さが見事に描かれている。
「女敵討」(めがたきうち)
奥州藩士吉岡が、江戸藩邸の守りで江戸勤番について二年半。国元に残した妻が不貞を働いているとの事で、妻の成敗と、女敵を討ち果たすため国元にこっそりと帰り、不貞の現場に乗り込むのだが。
吉岡の女房に対する思いやりが何とも言えずやるせない。心温まる作品。 
「江戸残念考」
大政奉還と云う大変事。鳥羽伏見の戦いでの幕府軍の敗走。「ざ、残念」。鳥羽伏見の戦いで生き残った娘の許婚が、行けば万に一つも命はない上野の戦いに行くと言う。そこで見せる父親としての情がいい。
「御鷹狩」 
零落(おちぶ)れた江戸を、醜く変えているのは、壕端に屯する夜鷹だと、「御鷹狩」と称して夜鷹狩をする若侍。その若侍は、夜鷹が産んだ子であった。

現代人は、携帯電話により、伸縮自在の首縄の端を、家庭と会社に握られいるようなもので、携帯電話出現は、個人の不在の自由を奪い取ってしまった。これを揶揄した「大手三之御門御与力様失踪事件之顛末」が、傑作。入り婿になる前に、惚れた薬問屋の娘の死に水を取るため神隠しの技を、男の矜持を取り戻す為に実行する件の与力、心が和む話。また、御組頭が同じように神隠しを企てる「落ち」が洒落ている。

女敵討の「人間はそもそも神の造物であるのだから、つまるところ人為の法律や道徳を超越して本能の命ずるままに人間らしく生きることこそが神意に適う事」が、このお腹召しませのテーマだろう。 

「小説は、その奔放な嘘にこそ真骨頂がある。歴史物は嘘は許されない」を挑戦したのが、この本だと著者は言う。やはり、小説は、「ホントの嘘」でなく「嘘のホント」が良い。
「目覚めよ日本」列強の民族侵略近代史
渡辺洋一
K&Kプレス

2013.4.22
ポルトガル、スペインの中南米侵略から、白色人種による有色人種に対する500年余の植民地支配の残虐の歴史、及び中国によるチベット、新彊ウィグル、内モンゴル侵略とその惨虐行為が詳述される。それは、過去の歴史を正しく学び、世界の現状を正しく認識し、日本が現在直面している危機を理解し、それを乗り越え、子孫の為につながる対策を打ち出しうるかを読者と共に考えるのが目的で、執筆に15年が費やされた著者憂国の力作。B5版355ページの大作。

箇条書きでしか知らなかった列強の民族侵略の事実が白人目線でなく黒人目線で、またあまり教えられることがなかった日本近代史が、優しい綴りで物語風に、まさに歴史学者によるものではないかと思われる程、詳細に語られる。ただ、著者も語り継ぐべき義務だからと断わっているのだが、侵略の残虐さに、やり切れない思いに落ち込んでしまう。反面、それ程、著者の怒りは激しいものなのだろう。

今の中国の、共産党一党独裁による信じられない数々の行いは、そうせざるを得ない中国国民の民度によるものと憐れむほかはないのだが、抜き差しならぬ状況になりつつある今、産経新聞がこの度提唱した、まさに著者も言われているのだが、国づくりの目標を「独立自存の道義国家」と掲げる「国民の憲法」への改憲が望まれる。こう云う事を考えさせてくれる大変貴重な啓蒙書でもある。
「太陽は動かない」
吉田修一
幻冬舎

2013.4.27
中国の国営総合エネルギー巨大企業と香港の銀行資本、対、日本大手電機メーカーの間での、宇宙太陽光発電と云う未来エネルギーの主導権争いのなかで、機密情報をいち早く手に入れ、高値で売り飛ばすことを生業としている産業スパイ達の壮絶な争いのアクション物。吉田修一には珍しい作品。

「幸せってのはゴールでなくて、毎日拾って集めてくるもの」に納得。

吉田修一らしい、乾いた綴り、臨場感ある綴り、テンポよい、変化ある展開で、緊張感から解き放たれる事がなく、面白い事には文句のつけようがない。ただ、胸を打つ吉田節がめずらしく聞かれないのは寂しいし、不満。 
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「神社とは何か?お寺とは何か?」
株式会社阪急コミュニケーションズ
ペン編集部

2013.3.27
神社とお寺の、なにがどう違うのかを易しく解説してくれる。例えば、崇拝対象の違い。神社は、森羅万象の神々を祀る神社は、鏡や剣などを神霊の宿る御神体として崇める。仏教は、開祖である釈迦像の仏像。神社のタブーは、神様の通り道をあけておくと云う意味で、参道の真中を歩かないとかも教えてくれる。24の神社とお寺の説明、代表的神話4つ(イザナギとイザナミ、天岩戸、ヤマタノオロチ、オオクニミシ)の解説、三法印(諸行無常、諸法無我、涅槃寂静)、四聖諦(苦諦、集諦、滅諦、道諦)、八正道の解説と、大変幅広い。
 

読書ノート

2013.3月

(本タイトルのフォント青色の書籍が、私の好きな「100冊の本」候補)

2013.4月

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